沼尻竜典/大阪センチュリー「火刑台上のジャンヌ・ダルク」 ~ 逆風20周年
2010/2/5

これは、大阪センチュリー交響楽団の創立20周年記念特別演奏会ということだ。てっきり定期演奏会だと思っていたら、2月定期は1週間後に予定されている。そりゃそうだ、この手間ひま、ソリストも揃えないといけない演目を定期演奏会で取り上げるには、状況が厳しすぎる。

関経連秋山会長の在阪オーケストラは統合すべしという発言に端を発する騒動に加え、その後誕生した橋下知事による補助金削減が存続の危機に輪をかけた。しかし、世の中よくしたもので、芦屋の老婦人からの2億円の寄付があって一息ついたのだろうか。もっとも、このプログラムはその寄付の前から決まっていたもたのだが…

オネゲル:劇的オラトリオ「火刑台上のジャンヌ・ダルク」
 ジャンヌ・ダルク:カティア・レフコヴィチ
 修道士ドミニク:ミシェル・ファヴォリ
 聖処女/声:谷村由美子
 マルグリート:渡辺玲美
 カトリーヌ:竹本節子
 声/伝令官Ⅲ/ルニュー・ド・シャルトル/ギョーム・ド・フラヴィ
   /ペロー/酒樽かあさん:田村由貴絵
 豚/声/書記:高橋淳
 伝令官Ⅰ/驢馬/農民/司祭:望月哲也
 声/伝令官Ⅱ/ジャン・ド・リュクサンブール/ベッドフォード
   /ウルトビーズ/執行官:片桐直樹
 オンド・マルトノ:原田節
 合唱:ザ・カレッジ・オペラハウス合唱団/岸和田少年少女合唱団
 演出:小須田紀子

休憩なしの一曲プログラムなので、通常より5分遅らせて定刻10分遅れの開演、時間にして正味1時間10分、これはかなり濃密な時間だった。並んだ顔ぶれを見ても、上演レベルの高さは予想できたが、期待に違わず。

沼尻さんの音楽が最近変わってきた。二、三年前に比べると、音楽が濃くなってきているように思える。それは音の響きといったものではなく、サウンドの豊かさと裏腹に淡泊さを感じた表現に、ずいぶんと情がこもってきた感じがする。表面的なものでない、作品への没入という変化が私には感じられる。この人、知情意の均整がとれつつあるように思う。

全11景、それぞれに丁寧で描き分けもメリハリの効いたもの、同時にヒロインへの感情移入もフランスから招いた二人のアクターの熱演と相まって尻上がりである。初めて聴く曲、語りがオーケストラをバックにというのもユニークだが、フランス語だと歌うよりもかえって響き的にはいいかも。これがイタリア語だと、語っても自然に歌になってしまう。

歌い手で特筆ものは高橋淳さんだろう。ミーメのような異形のテノール役では随一の存在になりつつあるのを感じる。この「火刑台上のジャンヌ・ダルク」でもいきなり豚役で、速射砲のような異様な歌(?)から始まる。これで一気に音楽が活性化する。出だし、期待した谷村由美子さんの声に今ひとつ精彩を感じなかっただけに、余計にその感が強い。舞台前方で歌った望月哲也、片桐直樹といった男声陣が好調。反面、プロセニアムでの女声陣が位置のせいか、今ひとつヴィヴィッド感がない。谷村さんの後半の歌はよく響いてきたのだけど。

オンド・マルトノ奏者の原田節さんが舞台下手のヴァイオリンの後というのも面白い。トゥーランガリラ交響曲とかこの楽器を使うときには必ず登場、そのときは舞台中央だけど。この楽器奏者は何人かいるのかも知れないが、私は他の演奏者を知らない。この電子楽器を使うついでと言っちゃなんだが、当然のように役者はPA(Public Address)付き(SR:Sound Reinforcementのほうが適切な用語か)、あまり不自然な印象はないが、オーケストラや他のソリストとのバランスを考えると、もう少し絞り気味のほうが良かったかも。

舞台後方からプロセニアム席を経て、オルガンの上部に至る白い大きなピラミッドが設えられている。その中腹がジャンヌとドミニクの舞台であり、白い背景には場面に応じた映像が投影されるとともに、照明の色調も変化する。シンプルで、音楽の邪魔をすることもないので好感が持てる。最後の場面ではピラミッドの一部が十字架の形に切り抜かれて立ち上がるという趣向、ジャンヌを殉教者に見立てた演出だろう。

この1938年初演の曲、現代作品の割には国内でもけっこう取り上げられているようで、つい最近も大阪音楽大学カレッジオペラハウスでの舞台上演があった。残念ながらそれは観ていないので比較のしようもないが、こういう安全第一路線とは一線を画すの演目がかかるのは歓迎である。

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