オーギュスタン・デュメイ/関西フィル定期 ~ 二転暗転
2010/3/11

予定のプログラムの曲順変更があり、さらに本番直前に再度曲順の変更があった。休憩後のベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲の前になって、舞台に現れたのは西濱事務局長、もう一度プレトークということはない。アナウンスされたのは指揮者兼ヴァイオリニストのオーギュスタン・デュメイ氏の体調不良によるドクター・ストップという異常事態、公演のキャンセルや開演前の演奏者交替などは何度も経験しているが、中途での公演打ち切りは初めて遭遇するものだ。

メンデルスゾーン:序曲「フィンガルの洞窟」
 シューベルト:交響曲第5番 変ロ長調D485
 ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲ニ長調Op61
  指揮&ヴァイオリン:オーギュスタン・デュメイ
  関西フィルハーモニー管弦楽団
  ザ・シンフォニーホール

突然のアクシデントで事務局としても対応に苦慮したことだろう。演奏会が半分で中止になったことで、チケットについては全額払い戻しするらしい。生身の体だし急病は如何ともしがたいこと、デュメイ氏の弾き振りが公演の目玉であったことは間違いないにしても、個人的にはそこまでしなくともというのが正直な印象だ。

公演キャンセルならいざ知らず、野球でいえば5回終了で試合は成立、その後雨天コールドになったとしても払い戻しはない。この途中打ち切りの後、払い戻しに備えた記帳に並ぶ人で帰りのロビーが大混雑したのには、いささか残念な気がする。大阪の人間は価値のないものには金を出さないが、その逆は、と思っていたのに…

それで、翌日、事務局長にメール、払い戻しを会員に案内するなら、寄付のオプション選択も可能としてはどうかと。前半の内容がとても良かったのだから、払い戻しは不要という人も多かろう。もちろん、私もその一人、払い戻し分は寄付としてほしいが、郵便代がもったいないから案内は不要と伝えた。それが当たり前の金銭感覚のはず。

思わぬ出来事で余計なことばかり書いているが、前半に演奏されたメンデルスゾーンの「フィンガルの洞窟」とシューベルトの第5交響曲が大変よい演奏だったことに触れなければ意味がない。ともすればルーチン的に演奏されてしまう演目に清新な響きを聴き、オーケストラメンバーの自発性の発露を感じるとともに、果たして指揮者としてどうなのかと思っていたデュメイ氏の作品に向き合う真摯さが伝わるものだった。

指揮棒なし、そして指揮台もなし。初めて見るデュメイ氏、いったい身長はどれだけあるんだろう。指揮台に乗ったらオーケストラメンバーは二階を見上げるような感じになるだろう。邦人指揮者には平均身長より低い人が多いのとは対極だ。デュメイ氏のタクトを持たない長い手から柔らかい音が紡ぎ出される。優しくデリケートでいて、引き締まった音楽である。来シーズンから音楽監督に就任予定、名ヴァイオリニストだけの顔ではなさそうだ。後半、管楽器群を舞台上手に配するユニークな配置で、どんなコンチェルトになるか楽しみだったが、前半だけでも充分に価値のある演奏会だった。

翌日の楽団ホームページによれば、デュメイ氏は内臓の障害だったが快方に向かっているとのことで一安心ではある。音楽監督就任前に再度の来日が予定されている。次回を期待したい。

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