大友直人/岩谷祐之/関西フィル定期 ~ 上り調子の快感
2010/6/11

定期演奏会の会員だと、普通なら行かないだろうと思うコンサートにも、勿体ないという意識が先に立ち、つい出かけてしまうものだ。それは、それで、思わぬアタリに遭遇することもある。もっとも、年間ラインアップを眺めて会員になるわけだから、ハズレが予想される回が多いと一括購入などあり得ない。いま私が会員になっているのは関西フィルだけ、あと3つの在阪オーケストラはその都度一回券。

芥川也寸志:交響管弦楽のための音楽
 伊福部昭:ヴァイオリン協奏曲第2番
 バルトーク:管弦楽のための協奏曲
  指揮:大友直人
  ヴァイオリン:岩谷祐之

NHK-FMの収録が入っている。ありきたりのプログラムだとこうはいかない。そのせいもあろう、関西フィルの演奏の精度が異常に高い。創立40周年、オーギュスタン・デュメイを音楽監督に迎え、まさに上昇機運にあるオーケストラならでは。これは指揮台に立った大友さんの力もあるだろう。タクトがあったほうが判りやすいと思うのだが、いつものように棒なし、見にくいほうがかえってオーケストラの集中度が高まるのかも知れない。この人の指揮は、外連味がなく音楽の流れの自然さと、語り口の上手さが身上だ。メンバーが普段よりのびのびと演奏しているように見える。

芥川作品、1950年の作ということだが、こんなに判りやすくていいのというような曲だ。耳あたりのいい音楽、クラシック音楽の終焉の時代に苦悶しつつ書いたとはとても思えないなあ。ショスタコーヴィチの映画音楽などの真剣ではない作品群と通底するものがある。

伊福部作品、これは傑作ではないかしら。第2番ということは、第1番があるはずだから、そっちも聴いてみたいと思わせる。日本的でありながらコスモポリタン的な伊福部サウンド、1978年の作。日本以外でも通用するだろうと思う作品だから、優秀な邦人ヴァイオリニストは多いのだし、どんどん海外でも紹介してほしいものだ。もっとも、曲目の選定はオーケストラ側がすることが多いから、オーケストラごと向こうに行かないと実現は難しいかも。

若いコンサートマスターの岩谷祐之氏、「伊福部昭が遺した幻のコンチェルトに、マエストロ大友と私で、新たな魂、現在の息吹を吹き込みたい。この、一見シンプルで単調になりがちな"現代曲"に隠された真の魅力、そして、静なる空気感と圧倒的な躍動感を、今宵は表現したい」とは、プログラムに載せられた彼のメッセージだが、確かにその言葉通りの演奏だった。長くゆったりとしたソロ、猛烈に激しい合奏、緩急のメリハリが大きい単一楽章、とっても聴き応えがあるのと、これはあとに尾を引く音楽だ。

海外から招聘したソリストだとアンコールねだりの拍手が続くものだが、今回それはないに決まっているのに掛け値なしの歓声と大喝采が続く、ソリストにしてもオーケストラにしても快心の演奏ではなかったか。このプログラムにしてシンフォニーホール8割方が埋まる。こういう演奏会を続けているとコンスタントに満席になる日が来るだろう。

バルトーク、観て楽しい、聴いても楽しい。Giuoco delle coppie という第2楽章は、題名どおり対になった楽器のリレーを眺めるのが面白い。各パートが代わる代わる主役になる曲だけに、オーケストラは否が応でも張り切らざるを得ないし、FM収録効果もあってかヴィルトゥオーゾ・オーケストラまで行かないにしてもライブにしてはずいぶん緻密である。これなら、毎回NHKが収録してくれたらいいんだけどなあ。

帰り際、ホワイエで西濱事務局長を見かけたので、歩み寄り、「今回はすごーくよかったですよ」と月並みな言葉、文字にするとつまらないが、そこはそれ、表情と声の調子、こちらの気持ちはすぐに相手に伝わるのだ。

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