小泉和裕/大阪センチュリー定期のショスタコーヴィチほか ~ 一足早く梅雨明け
2010/7/15

日中からそわそわしていた職場のトラキチは5時になると飛び出して行ったが、その直後に突然の大雨、10分後には甲子園球場の阪神・巨人戦は中止に決定。きっと電車の中でガックリきていただろう。

私は6時前に雨がおさまったのを見計らい、シンフォニーホールに向かう。楽器の音には影響が出るかも知れないが、こちらには雨天中止はない。

リスト:交響詩「ハムレット」
 ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番
 ショスタコーヴィチ:交響曲第5番
  ヴァイオリン:米元響子
  指揮:小泉和裕

あまり定期演奏会らしくないプログラムだ。ブルッフにしてもショスタコーヴィチにしても、どこでも演奏されるので名曲コンサート風ではある。唯一、冒頭の「ハムレット」だけが珍しい演目か。そういえば、先の定期演奏会で小泉さんはベルリオーズの序曲「リア王」を取りあげていたから、その路線かな。そうすると、交響詩「マクベス」(R.シュトラウス)も序曲「オセロ」(ドボルザーク)もあるから、四大悲劇の管弦楽作品が揃うことになる。もっとも、今回のリスト作品、今ひとつ面白みには欠ける印象だ。たくさん交響詩を作っているリストにして、傑作と言える範疇には入らないものかも。

米元響子さんのヴァイオリンを聴くのは二度目だ。最初は6年前、広上淳一指揮の京都市交響楽団の定期演奏会でのチャイコフスキーのコンチェルトだった。あのときは二十歳そこそこ、初々しい印象だったが、ずいぶん落ち着いた雰囲気になっている。この人のヴァイオリンは素直で自然なところが好ましい。そのあたりは全く変わっていない。情緒連綿たるブルッフもあり得るのだが、この人の場合はそんなこってりした演奏になることはなく、清新ささえ感じられる弾きぶりである。逆の見方をするともっと自己主張があってもということも言えるが、変に崩されるよりもあるがままがよい。

休憩時間、最近とみにトイレの混雑が目につくこと。従来から女性のほうには列が出来ていたが、男性のほうもそれ以上の長さで順番待ちが出来る。オーケストラの定期演奏会は男性の聴衆が多いという理由もあるが、以前と比較すると列の延びが顕著である。これは間違いなく聴衆の年齢層が上がっているからだろう。各オーケストラ、各ホールとも若い人を引き寄せるために種々努力をしているが、目立った効果が出ていないのは残念なことだ。逆に、こんな休憩時間の光景で、聴衆の変化を実感することになるのだから。

「お若いのやから、煙草はやめはったらよろしいで。私は80ですから今さらですけどね。昔は中でも吸えましたけど、今はこんなとこに追いやられてですしね」と、ホールの外の喫煙コーナーで老紳士に声をかけられる。いやはや、こちらちっとも若くはないのだけど。

後半のショスタコーヴィチ、もともと団員の少ない大阪センチュリー交響楽団なので、大編成の作品を取りあげることは多くなく、ショスタコーヴィチ自体が珍しい部類になる。なので、名作でありながら、初めて取り組む団員も多いと想像する。オーケストラのやる気満々のところが客席からも見て取れる。細部の疵はあっても、プロのオーケストラが意欲をもって演奏すると、そのことはすぐに客席にも伝わる。

未だ評価の定まらない作品群にあって、解釈の違いはあっても傑作であることに間違いない第5番、聴いていると他作品では散見される無駄がないのがよく判るし、小泉音楽監督のもと緊密さが持続する。これまでプログラムについても演奏についても、あまりピンと来ない印象のあった小泉さんだけど、これはなかなかの快演、梅雨明け近しの天気図だが、一足早くこちらは青空。

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