関西フィル定期「トリスタンとイゾルデ」第2幕 ~ オマケは要らない
2010/7/30

そんなに頻繁に上演される作品でもないのに、ある年に重なることがある。「ノルマ」もそうだったし、「ばらの騎士」もそうだった。その伝で行けば今年は「トリスタンとイゾルデ」、秋にはびわ湖ホールだし、年末には新国立劇場だ。そのトップバッターと言えるのが、関西フィルが定期演奏会で取り上げる第2幕である。

ワーグナー:歌劇「タンホイザー」序曲
 ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」第2幕
   トリスタン:竹田昌弘
   イゾルデ:畑田弘美
   マルケ王:木川田澄
   ブランゲーネ:福原寿美枝
   クルヴェナール:橘茂
   メロート:松原友
   指揮:飯守泰次郎

飯守さんが毎年振っている演奏会形式のオペラ、自身がやりたいワーグナー、テノール竹田昌弘あっての企画だし、来年には「ジークフリート」も予定されている。今年、トリスタンを歌うのは彼だけが日本人歌手だ。とは言っても、テノール一人でこの難物を支えられるはずもないと、心配も半分、蒸し暑いなかシンフォニーホールへ。

プログラミングの失敗である。一夜2時間のコンサートを構成するために「タンホイザー」序曲をセットし休憩を挟んだのだろうが、それは必要ない。第2幕だけにしてもよかったし、組み合わせるなら「トリスタンとイゾルデ」の前奏曲だろう。その場合には休憩は要らない。

と言うのも、本編に先立つ「タンホイザー」序曲が散々の出来だったから。たぶん、「トリスタンとイゾルデ」に集中して、この序曲のリハーサルを疎かにしたのだと思う。全く各パートがバラバラで、響きの重なりもなければ、流れも極めて悪い。冒頭、木管で巡礼の合唱のメロディが流れた途端、客席で小さく「へたくそ」とつぶやいてしまったぐらい。これでは休憩後に向けて気分を盛り上げるどころか、意気阻喪するばかりである。全くの逆効果。

プロといえどもいかに練習が大切か、「トリスタンとイゾルデ」第2幕が始まると、まるで音が違う。あの「タンホイザー」序曲はいったい何だったんだ。上手い下手という次元を超えて、この第2幕ではオーケストラがうって変わって緊密である。リハーサルで細部を練り上げてきたに違いないし、それならなおさら予定のプログラムを変更するぐらいのことをしてほしかった。

イゾルデ役の畑田弘美さん、リリカルな声だから、ちょっとこの役には厳しい。この日は珍しく友の会当日引き替えでS席が回ってきたので、ポジションとしては最良の席なのに、彼女の声がオーケストラにかき消されてしまう場面が多い。舞台前面で歌っていても、である。先ずもって声の豊麗さと強靱さがないとイゾルデは難しい。関西ではなかなか人材が求められない事情は判るにしても。

その逆が竹田昌弘さんである。関西でしか得られないワーグナーの役でも歌えるテノールだ。イゾルデの場面が終わって、トリスタン登場のシーンから一気に舞台が活気づいた。一つの幕だけだし、フルスロットルの歌唱である。やや明るすぎると言えなくもないが、輝かしい声で歌われるトリスタンは魅力的だ。デュエットでの相手役とのバランスが問題になるが、それに合わせて抑えてもらう必要などない。トリスタンだけを聴くのは邪道かも知れないが、そんなことを言っても仕方ない。

長大な愛のシーンのあとに登場するマルケ王の木川田澄さんが素晴らしかった。こちらも長いモノローグになるが、イゾルデを娶るに至ったいきさつ、信頼を裏切ったトリスタンへの落胆、自身の悔悟を諄々と聴かせ、深みと年輪を感じさせる歌唱だった。ブランゲーネを歌った福原寿美枝さんも、イゾルデよりもずっと存在感があり、関西のメゾの第一人者と再認識する。

脇が固まり、飯守さん指揮のオーケストラも万全の態勢、となるとあとは主役なのだが、やや片肺飛行という感じで惜しい。ここは関西にこだわらずイゾルデを全曲歌ったこともある飯田みち代さんあたりを起用してみたらどうだったんだろうか。彼女は京都大学出身だから、関西みたいなものだし。

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