小山実稚恵デビュー25周年記念・協奏曲の夕べ ~ 重量級シンフォニーが二つ
2010/9/3

出張で来た東京に居残って連夜のサントリーホール、これが分割して取る夏休みの第1弾だ。ちょっと遅い気もするが。涼を求めて奥多摩まで足を伸ばし都心に戻る。開演前の腹ごしらえにと、向かいのビルのトンカツ屋に入り、汗で失った水分補給にビールを二杯、カツの盛り合わせを平らげ、ご飯も少しと口に運んだ途端に、バリッ。何が起きたかわからず、そっと口から取り出してみたら粉々になったシジミの貝殻だ。まだ味噌汁には手をつけてもいないのに…。おかげで夕食はお店にゴチになってしまうという、幸先がよいやら悪いやら。知り合いに調理器具のネジを齧って、しばらく歯科医のお世話になった人がいるから、丈夫な歯のおかげ、運がよいとするべきか。

ブラームス:ピアノ協奏曲第1番ニ短調
 ブラームス:大学祝典序曲
 ブラームス:ピアノ協奏曲第2番変ロ長調
  ピアノ:小山実稚恵
  管弦楽:東京都交響楽団
  指揮:大野和士

この二人、東京藝大の同窓生らしい。プログラムを読むと新進の時代に競演したことがあるようだ。それから何年、どちらもメジャーな存在となり、今宵は小山さんの25周年記念の協奏曲の夕べ、ブラームスを二つ並べるとは何ともすごいプログラムだ。長さにしても内容にしても、ひょっとするとブラームス自身の交響曲以上の作品かも知れない重量級、私は一晩で聴いたことなどない。

大学祝典序曲を間に挟むという、あまり例のない順序は、休憩時間15分にプラスして小山さんの休憩を30分間確保するという配慮だろう。そして、ここで演奏された大学祝典序曲の素晴らしかったこと。場つなぎのピースなどとんでもない。こんなに活き活きとしたオーケストラを聴くと、こちらまで幸せな気分になる。出だしの弦楽器のリズムのはつらつとしていること。コンチェルトのとき以上に大野さんの棒への反応がよい。どんな音楽をつくりたいのか、すこぶる明晰である。いうのも、ピアノコンチェルトには不適だが指揮者の意図がとてもよく判るPゾーン最前列中央、そこが本日のポジションである。

ヴァイオリンが対向配置されていて、コンチェルトのバックでの掛け合いにハッとする。まあ、ブラームスのコンチェルトだから、ソロ楽器を別にしてもそれなりのものがあるということだ。とても優しく、包み込むような伴奏を付けている。緩徐楽章にそれが顕著、剛毅というよりも柔和、そっちのほうのブラームスの一面が現れる。二つ並べて聴くと、演奏は尻上がりなので第2番ということになるが、私は第1番が好き。第2番のほうは、唐突に違和感のあるフレーズがオーケストラに現れたりして、えっと思うこともあるのだが、それを感じさせない流れのスムースさがある。

小山さんのピアノを論評する聴き位置ではない。顔の表情はよく判るが、ピアノの音源との間には蓋があるし、ピアニシモとなると間に陣取ったオーケストラの上を通過できるかどうかだし。とは言っても、ピアノパートのある交響曲と考えれば、これほど渾然一体感のある演奏は滅多に聴けないものだ。「デビュー25周年記念・協奏曲の夕べ」と言いながら、これはブラームス・アーベント、ただの伴奏にとどまらないビッグネームが指揮台に立つと、予想できたことではあるが大変な充実度だ。客席は満員、前日のオーケストラとは客層もちょっと違うのが面白い。

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