ヴィヴァヴァ・オペラ・カンパニー「ロターリオ」 ~ ここらが転機かも
2010/9/5

ヴィヴァヴァ・オペラ・カンパニーがここ数年行っているヘンデル・オペラの日本初演シリーズ、2004年に始まり、「フラーヴィオ」、「アルチーナ」、「デイダミア」、「イメネーオ」、「トロメーオ」、「オルランド」の6作がこれまでに上演されている。そして今回の7作目が「ロターリオ」である。タイトルを並べるとどれがどんなお話だったか判らなくなってしまうが、私は皆勤賞、べつにご褒美があるわけではないけど。

アデライデ:端山梨奈
 ロターリオ:福島紀子
 ベレンガーリオ:竹内直紀
 マティルデ:名島嘉津栄
 イデルベルト:永木るり子
 クロドミーロ:迎肇聡
 管弦楽:Baroque Ensemble VOC
 指揮・演出:大森地塩
 衣裳:中埜愛子

手許にチラシが2種類ある。カラーのものは本チラシで、モノクロは仮チラシだ。VOCのサポーターの端くれとして、金銭的には援助できないにしても、集客に協力するためにアイディアを提供し、さるホールでの春のオペラ公演の際に配ってもらうよう手配したものだ。それがモノクロの予告チラシということ。多少なりとも寄与したのかどうか何とも言えないが、会場の伊丹アイフォニックホール(502席)はまずまずの入りである。

お話は例によって王侯貴族たちの争いや恋の鞘当て、ヘンデル・オペラの常として人物が交互に登場してアリアを歌っては退出というもので、アンサンブルはほとんどない。こうなってくると、個々の歌い手の力量に多くを依存してしまうことになり、その優劣、出来不出来が露わになるという恐ろしさがある。きっと舞台に立つ人にとっても同じだろう。誤魔化しは一切効かない。

過去の公演でもそうだったが、数名の登場人物のうち一人、二人が図抜けた水準で、他は少々見劣りするというのがVOCのキャスティングである。優れたほうが、津山和代さんであり、谷村由美子さんであり、今回も登場した端山莉奈さんであり福島紀子さんである。

昨年の「オルランド」では凸凹が均され、オペラ上演として楽しめたのだが、今回は印象的には逆戻りしてしまったようなところがある。幕開きからだいぶ時間が経ってアデライデとロターリオが登場するまで、とっても退屈だったのである。端山莉奈さんと福島紀子さんの二人が出てきてオペラらしくなった。ヘンデルの作品の通例なのかどうかよく知らないが、はじめの30分ぐらいはつまらない。

永木るり子さん、迎肇聡さんはほぼ毎回の出演なのだが、私の感じるところでは停滞感が強い。永木さんのくぐもった響きと言葉の不明瞭さ、迎さんの大きな声と裏腹の響きの薄さ、この素人にも判る欠点を是正する努力がどれだけ払われているのか、回を重ねているわりに進歩が感じられないのが残念である。永木さんは昨年はずいぶんよくなったと思ったのに。迎えさんはびわ湖ホールの「ボエーム」で堀内康雄さん降板を受け急遽マルチェッロの代役に立ち力量不足を露呈したが、せっかくのチャンスを活かせなかったことも事実、素質はあると思うだけに残念だ。

VOCのヘンデル上演、昨年と今年の充実度の違いを見るに、このパターンで続けていくのはどうなんだろうか。一人や二人の実力のある歌い手に頼るのではなく、キャスト全体の底上げがオペラとしての感興を高めるには必要だろうし、歌い手を支えかつリードして行くべきアンサンブルの切れ味を増すことも重要だろう。そうでなければ「オルランド」の水準止まりということが何となく見えてきた。演出や装置の工夫は回を重ねるごとに施されているが、肝心の音楽面では停滞感もほの見えるいま、ここらが転機かも。

そのことが関係するかどうか定かではないが、次の計画はヘンデルのオペラではなく、バロック時代の埋もれた作品の発掘ということだ。昨年の公演時にちょっと予告があったピエトロ・アンドレア・ツィアーニ「ロードペとダミーラの運命」の蘇演をイギリスでやろうという計画が進んでいるとのこと。ロンドン在住の音楽学者の松本直美氏の研究成果を世に問うということで、「バース国際音楽祭」、「ブライトン古楽音楽祭」での上演を模索しているらしい。当然にお金のかかることで、歌手9人、オーケストラ7人、制作スタッフ4人の計20人分の渡航費を集めるべく、カンパやツアー募集のアイディアが出ているようだ。もっとも必要経費はつつましいこの団体らしく驚くほどの少額である。どうせやるなら、今回感じた音楽的な不満を払拭するようなキャストを組んで、単なる学究的な復活上演にとどまらない芸術的成果を目指してほしいと思う。

会社の後輩から、ドン・アルヴァーロを歌うので是非聴きにきてほしいという知らせを受け取ったとき、東京滞在を延ばせば何とかなるにしても、私の手許には伊丹の「ロターリオ」のチケットがあった。新宿ではどんな上演になったのか知る由もないが、シーズンに突入すると何かとバッティングが増えて悩ましい。

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