みつなかオペラ「マリア・ストゥアルダ」 ~ ベルカントには遠く
2010/9/20

阪急宝塚線川西能勢口の梅田寄りの出口を出たら、駅ビルの中を通り高架の線路沿いに行く近道があった。なあんだ、前日はJRで来たものだから炎天下を歩く羽目になってしまった。ということで、連日の「マリア・ストゥアルダ」である。当日券ありとの表示があったが、場内では満席と言っていたので、完売したようだ。初日がよかったらしいので行ってみようという人がいたのかも。

マリア・ストゥアルダ:泉貴子
 エリザベッタ:橘知加子
 レスター伯ロベルト:竹内直紀
 タールボット卿:片桐直樹
 セシル卿:萩原寛明
 アンナ:小梶史絵

前日とキャストは変わる。Aキャスト、Bキャストというわけではないが、主役三人に限ると、こちらは若手組ということだ。残念ながら未熟さを露呈したところが多く、前日のようには楽しめなかった。

二日目で、オーケストラやコーラスはさらにこなれた反面、マリア・ストゥアルダとレスター伯ロベルトの二人はベルカントからほど遠い。この二人は同じ問題を抱えている。声は出るので客席はそれなりに沸いていたが、あんな歌い方では音楽が台無しだと私は思う。

私のような素人でもちょっと聴けば判る単純なことである。佳い声、強い声が出て、はっと耳を奪う。魅力的である。ところが音楽が進みクライマックスに向かっても、既にその声を出してしまっているので、声を張ろうにもそのレベルは上がらない。結果、同じレベルのフォルテがのっぺりと続き歌が平板になる。さらに、力んでしまうことでメロディラインが壊れるという悪循環に陥るし、力んだあとのフレーズでは音が飛んだり、声が濁ったりという事態が起きる。3000人のホールじゃないし、ここでは力を抜いて自然な抑揚で声を出せば充分、それが良い結果に繋がると思うのだが…

泉貴子さんは2005年のびわ湖ホール「スティッフェーリオ」でリーナ役のカヴァーに入っていた人、公演のプレイベントで歌ったのを聴いたことがある。そのときには好印象を持った人だが、その後5年の成長が感じられない。竹内直紀さんもびわ湖ホールのアンサンブルのメンバーで聴く機会が多いが、天性の声の使い方に工夫がみられない。周りに指摘する人がいないのかも知れない。もっとも、何かのきっかけ、何かの気づきで、コロッと変わることもあるので、せっかくの素材、それを期待したいものだ。

この二人に対置すると、エリザベッタの橘知加子さんはずいぶん聴きやすい。フレージングにふくらみがあるし、音楽が淀みなく流れる。同様のことは、出番が少ないもののアンナ役の小梶史絵さんにも感じた。やっぱり。プログラムを見たら彼女はマリア・ストゥアルダのアンダーにアサインされていた。

二日続けて聴くと、このドニゼッティ作品は傑作だということがよく判る。二人の強力なプリマを揃え、それに互すテノールを配さないと魅力が伝わりにくいところもあるが、音楽が弛緩するところはないし、ドラマの進み方にも無駄がない。終幕の合唱を伴うアンサンブルなど、感動的でもある。みつなかホールの内壁はどこか教会を思わせるデザインなので、この場面にはとてもよくマッチする。

出来不出来は生身の人間がすることだから仕方ない。オペラを立体的に把握するには、別キャストの日も聴くべしということを強く感じた二日間だった。

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