山下洋輔/藤岡幸夫/関西フィル定期 ~ 正しい順番
2010/11/19

山下洋輔氏、ノリノリの演奏、とっても盛りあがったコンサートだった。友の会のカードを提示して開演前に指定券と引き替えというシステムだが、30分前にチケット窓口に着いたら、「補助席になります。座席が硬いですが…」ということ。位置的には一階中央通路なので何の文句もない。木の椅子じゃなし、行ったことはないがバイロイトでワーグナーを聴くのではないから大丈夫。それにしても、予想を上回る盛況である。

ブラームス:交響曲第3番ヘ短調Op.90
 一柳慧:歌劇「愛の白夜」より「ワルツ」
 一柳慧:ピアノ協奏曲第4番「JAZZ」
   ピアノ:山下洋輔
   指揮:藤岡幸夫
   管弦楽:関西フィルハーモニー管弦楽団

この順番でプログラムを構成した関西フィルはえらい。ふつうだと、前半と後半が逆になる。ここでは現代作品が刺身のつま扱いではなくメインプログラムになっている。山下洋輔氏のソロが与って大きいとは思うが、ようやく、この順番でやれる時代になったということか。

でも、ブラームスと一柳、ずいぶんヘンな取り合わせである。もしかして、プログラムの真ん中に置かれた小品が結節点になっているのか。戦時中の駐リトアニアの外交官であった杉原千畝が多くのユダヤ人を救ったという史実に基づくオペラなので、ドイツから逃れリトアニアで日本のビザをもらって出国、行き着く先は自由の国アメリカとか。いやあ、それはちょっと深読み、考えすぎだろう。さすがに現代曲で固めると客足が、その保険のためのブラームスと解するのが自然。

前半のブラームスも悪くなかった。厚ぼったくならず、すっきりした響きである。第1楽章の展開部などなかなかいい。第3楽章も情緒纏綿という感じはなく、あっさり系の演奏である。これぞロマン派という演奏だと、後半プログラムとのギャップが大きすぎることにもなる。でも、この日のコンサート、ブラームスを目当てにシンフォニーホールに来た人はだぶん少数だろう。

休憩後、ピアノ協奏曲なのにピアノは舞台下手奥の位置、あれっと思ったが「ワルツ」にもオーケストラにピアノが入るのだ。といっても、はじめにピアノソロがあって、オーケストラに受け継がれるという構成だが。このワルツ、ピアノソロの部分はショパンのようだし、受け継ぐオーケストラのメロディも大変に親しみやすく美しい。といって先祖返りのようなロマンチック一辺倒ではなく、やはり現代作品のテイストが加わる。なんだかショスタコーヴィチのオーケストラのためのジャズ組曲のようで、少し影響が窺える。短い曲だしピアノも入るのだから、コンチェルトの後にアンコールでもう一回演奏するかも知れないななどと、舞台の配置替えのインターバルに思う。

さて、JAZZ協奏曲、なかなか面白い曲で飽きさせない。二楽章構成で前半は和の雰囲気とジャズが混じったようなところもあるが、後半は一気呵成のモダンジャズの佇まい。これはカデンツァとは言わないのだろうが、ピアノソロの部分も頻繁に挿入され、それがオーケストラの楽想の転換点にもなる。ついソロの途中で拍手したくなるが、いちおうクラシックのコンサートなので思いとどまった。中央の良い位置で聴いているから山下氏のピアノの大迫力がビンビンと伝わってくる。この人に献呈されているということは、作曲者との綿密なコラボレーションによる創作のはず、双方のアイディアを持ち寄ってできた曲だろうから、山下氏のソロが水を得た魚のようになるのは当たり前か。

いわゆるわかりやすい現代曲だ。今はずいぶんそんな作品が増えた。良いのか悪いのか何とも言えないが、ブラームスと並べられると、150年前のものよりも、もはやこちらのほうが自分に近しいと思えるのが不思議だ。

予想に反して、アンコールはこのコンチェルトの抜粋だった。なんだか似ているなあとは思ったが、曲のさわりを使ってずいぶんアドリブが入っていたようだ。定期演奏会での最後のアンコールは珍しいことだが、そうなるのがとても自然だった。

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