カルミニョーラ/ヴェニス・バロック・オーケストラ ~ 生きている古楽
2010/11/23

いただきもののペア・チケット、先ずはカミサンに声かけ、気乗りしなければ仕事がらみで誰それと思い廻らしていたが、二つ返事で「行きたい!」ということになり、あっさり決着。げに伊達男の吸引力なり。車で西宮、兵庫県立芸術文化センターに向かう。

ここでカルミニョーラを聴くのは二度目だ。前回は2007年の正月、小ホールでのモーツァルトとベートーヴェンのソナタだった。今回は一気に大ホール、「四季」をメインにしたバロックのプログラムだからか、この4年の人気の高まりなのか、古楽ではあまり客が入らない関西なのに、客席は8割ほど埋まっている。三階右側バルコニーの舞台寄り、ソリストを聴くには悪い位置ではないのに1000円、お値段が極めてリーズナブルというのも大きい。こういう価格が定着してくれるとほんとうにありがたい。貰いものなのにそんなことを思う。

アルビノーニ:弦楽と通奏低音のための4声の協奏曲ニ長調op.7-1
 ガルッピ:弦楽と通奏低音のための4声の協奏曲ト短調
 タルティーニ:弦楽と通奏低音のための4声のソナタ第3番ニ長調
 ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲変ロ長調 op.8-10 RV362 「狩り」
 ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲変ホ長調 op.8-5 RV253 「海の嵐」
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 ヴィヴァルディ:《調和と創意への試み》op.8より〈四季〉
 ヴァイオリン協奏曲ホ長調 op.8-1 RV269 「春」
 ヴァイオリン協奏曲ト短調 op.8-2 RV315 「夏」
 ヴァイオリン協奏曲ヘ長調 op.8-3 RV293 「秋」
 ヴァイオリン協奏曲へ短調 op.8-4 RV297 「冬」
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 ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲ハ長調 op.8-6 RV180 「喜び」 第一楽章
 タルティーニ:ヴァイオリン協奏曲イ長調 第四楽章
 ヴィヴァルディ:〈四季〉より「夏」 第三楽章

今回カルミニョーラが弾くヴァイオリンはバイヨー1732というストラディヴァリで、一度もモダン楽器として手を加えられていないものだという。ちょうど、前回に聴いたころに貸与されたらしいが、そのときがこれだったかどうかは判らない。ともあれ、この人が弾いたら古楽器の音なのに切れ味はモダンと変わらない。モダンなら巡航速度のクルージングというところだろうが、楽器の能力の極限まで使い切っているような爽快感があるし、それに活き活きとした表情が付くのが魅力なんだろう。熱狂的なファンが増えるのは判る。

前半プログラムで、ヴィヴァルディになってカルミニョーラが加わった途端に、全く音楽が変わる。テンポの緩急、音の強弱、フレージングの色気、やり過ぎると悪趣味になりかねないところを、決してセーフティゾーンから逸脱はしない。これが音楽的センスということなんだろう。「四季」なんて、あまり他では聴いたことのないほどの表情過多と言ってもいいような演奏なのに。
 面白いのは、アンコールの最後にもう一度演奏された「夏」の第三楽章、いやあ、これには参った。プログラム本体での演奏とは様変わり、やりたい放題のエンターテインメントと化したような演奏ぶりなのに、ちっとも嫌らしくないのが不思議だ。外見的にはクールな印象の人なのに、内には茶目っ気やユーモアが詰まっているのかも。それが演奏の端々に顔を出すという具合か。バロック音楽なんてあまり聴いたことのないはずのカミサンの拍手の仕方が、これは本気である。

アンサンブルメンバーだけで演奏された冒頭3曲がふつうの古楽オーケストラなんだろう。それはそれで心地よいものだったが、カルミニョーラでコロッと変身、格段にヴィヴィドで瑞々しい音楽となってしまうのは魔法のようでもある。貰ったチケットでカミサンへの不義理を埋め合わせるとは心掛けがよくない気もするが、結果よければということで、くださった方に大感謝。

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