大阪センチュリー交響楽団のリスト・プログラム ~ 「大阪」改め「日本」の意味
2011/4/21

生誕200年という記念の年ならではのプログラムだ。どちらもこれまで全く聴いたことがない。第1番のコンチェルトなら馴染みがあっても、第2番は珍しい。ファウスト交響曲も同様だ。

リスト:ピアノ協奏曲第2番イ長調
 リスト:ファウスト交響曲
 指揮:小泉和裕
 ピアノ:河村尚子
 テノール:福井敬
 合唱:ザ・カレッジ・オペラハウス合唱団
    びわ湖ホール声楽アンサンブル

どちらの曲も想像したものとずいぶん違ったイメージだ。

ピアノ協奏曲第2番、稀代のヴィルトゥオーゾだったというリストなら、これでもかと見せびらかすようなカデンツァを書いているに違いないと思ったら、それが、ない。短いソロ部分はあってもカデンツァと呼べるようなものは見あたらない。それどころか、コンチェルトなのに、この曲ではピアノはオーケストラの1パートのよう。単一楽章、ピアノが入ったオーケストラ作品ということか。協奏曲という名前はよろしくない。と、自分の知識不足を棚に上げ。

それで、河村尚子さんのピアノを聴くというよりも、オーケストラを聴くという感じになる。それはそれで、彼女のピアノとオーケストラのバランスもよく演奏の充実感はある。彩りにピアノを入れた管弦楽作品でもなければ、ピアノがオーケストラと対峙するコンチェルトでもないという不思議な作品、へえっ、リストはこんな作品を書いていたんだ。ユニークだし創造的だ。

そして、ピアニストのアンコールにシューベルト~リストの「糸を紡ぐグレートヒェン」を演奏したのは、前半・後半を繋ぐなかなかの選曲である。

その印象はファウスト交響曲になるともっと強くなる。三楽章、それぞれがファウスト、グレートヒェン、メフィストフェレスを表出するとのことで、繋がりや筋書きがあるわけではない。いずれの楽章も個性的だ。オーケストレーションの面白さがあるし、200年前の生まれの作曲家かと思うほど斬新だ。グレートヒェンの楽器の組合せ方はとてもユニークだし、ファウストの独特のリズムは矛盾と分裂を感じさせるに充分、そしてメフィストフェレスの大騒ぎとソリスト、コーラスまで動員する巨大化指向、こういうところを聴くとワーグナーやマーラーの前にリストがいることを思い知らされる。これは知られざる名曲かも知れない。生誕記念の年でもなければ定期演奏会で取り上げられることはないと思うが、リストのオーケストラ作品、侮り難し。昨年のシューマンと同じように考えてはいけないのだ。

新年度を期して大阪センチュリー交響楽団は日本センチュリー交響楽団に名称が変わった。そのスタートの定期演奏会だけに、楽団の意気込みが感じられた。充分な準備を重ねたのだろう。演奏の精度は高く小泉和裕さんの指揮に的確に応えている。三拍子と四拍子が交錯するファウストの楽章など、素人が見てもはっきり判る棒振りで、とても演奏しやすいのではなかろうか。この人、指揮台でタコ踊りをすることは全くないし、大げさな表情付けもない。演奏会では律儀に拍子を刻むという場面がほとんどだけど、緩急の変化やニュアンスの違いは自然に出てくる。練習を積んで、そこで伝えておけば自然にそれが出るから、本番では交通整理をすればいいだけと考えているフシがある。年月を重ねた音楽監督とオーケストラの関係はかくやというものだろう。

多数の男声コーラスと独唱テノールが加わるのは、最後のわずかの時間。詩句も数行のものだ。オーケストラだけで演奏する版もあるらしいから、生誕記念の年ならではの取組だろう。地震以来、オペラを三つ見損なってしまった自分としては、福井敬さんがソロを歌うの聴くと舞台への渇望がいや増すばかり。朗々たる歌い振りに渇き癒す。それにしても、オテロやラダメスのように2時間以上も歌うのとファウストの一節では効率がずいぶん違う。まあギャラもだいぶ違うだろうとは下種の勘繰り。

今回のオーケストラの名称変更という外目の変化の裏側には、団体の名称も性格も根本的に変わったということがある。つまり、大阪府(教育委員会)所管の財団法人大阪府文化振興財団が、国(内閣府)所管の公益財団法人日本センチュリー交響楽団に移行したということだ。

これが何を意味するかというと、大阪府から国に主務官庁が替わることにより、活動の範囲が大阪府に限定されないということになる。既に福井などでの演奏会が予定に入っている。さらに重要なことは、ふつうの財団法人(厳密には法改正に伴う従来の財団法人の移行前の形態である特例民法法人)が公益財団法人に移行したことで税制の恩典が付いてくるということだ。橋下知事に助成をカットされて青息吐息だったオーケストラが、芦屋の老婦人から遺産2億円の寄付を得てひと息ついたのはついこの前のことだが、それとてすぐに目減りする。今回、公益財団法人となったことで、税制面では特定公益増進法人の扱いとなり、寄付する個人や法人にとって税制優遇枠が拡大する。早い話がオーケストラにとって寄付を集めやすくなるということだが、国税では税額控除ではなく所得控除だし、地方税では税額控除であるものの「ふるさと納税」のように全額に近いものではない。とは言え、追い風であることには違いない。寄付文化が根付いていくことに繋がればと思う。

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