西宮の「こうもり」 ~ 季節はずれの
2011/7/17

この暑い季節に年末の演し物「こうもり」というのもねえ、とは思うが、これも恒例、佐渡オペラ、汗だく覚悟で西宮に向かう。

アイゼンシュタイン:小森輝彦
 ロザリンデ:佐々木典子
 アデーレ:小林沙羅
 アルフレード:小貫岩夫
 ファルケ:大山大輔
 フランク:片桐直樹
 オルロフスキー公爵:ヨッヘン・コヴァルスキー
 ブリント:志村文彦
 イーダ:剣幸
 フロッシュ:桂ざこば
 合唱:ひょうごプロデュースオペラ合唱団
 合唱指揮:矢澤定明
 管弦楽:兵庫芸術文化センター管弦楽団
 指揮:佐渡裕
 演出:広渡勲
 装置:サイモン・ホルズワース
 衣裳:スティーヴ・アルメリーギ
 照明:沢田祐二
 振付:川西清彦

この佐渡オペラ、正式には佐渡裕芸術監督プロデュースオペラと言うのだが、今回が6作目、過去に4作を観ている。ひとつ飛ばしたのは「メリー・ウィドウ」で、そのオペレッタのときのスタッフが今回も担当する。

まあ、これは大阪らしい、何でもあり、サービス精神てんこ盛りの「こうもり」である。大ホールが満席、開幕前から蝙蝠と蝶の衣装のパントマイムの役者が場内をウロウロ、客席のおばちゃんにちょっかいを出す。そこは大阪、おばちゃんも応酬、このノリの良さは首都圏では期待できない。素人と芸人の境が曖昧な土地柄、日頃の鍛えられ方が違う。と妙なところに感心する。このパントマイムは序曲の途中から舞台に上がり、オペレッタの前段のお話を演じるのだ。あらすじはプログラムに書いてあるわけだが、伏線を視覚化する親切な配慮。

ロザリンデとアルフレードのシーンから始まる舞台、アルフレードは好きに歌を選んでというのがお決まりだが、今回の小貫岩夫アルフレードが歌ったのは客間中央に置かれた白いピアノでの弾き語りでの Non ti scordar di me(クルティス「忘れな草」)、これは元彼として秀逸な選曲だ。そしてよくある乾杯の歌の一節。

オルロフスキーの夜会の途中で休憩を挟み三幕を二部に分けるというのを観るのは初めてだ。後半の開始には看守フロッシュに扮する桂ざこばの語りが入る。高座ならぬオーケストラビットの前面に設けられた回廊上の舞台が使われる。落語でもなければ漫談でもない、酔っぱらいを演じつつ大阪ネタ、時事ネタの連発で客席は大いに沸く。後ろの佐渡さんに酒を要求したら、ちゃんとお盆にのって徳利と猪口がピットから出てきて掛け合いとなる。

ざこば「あんた、燗と冷と、どっちがええ」
 佐渡「冷」
 ざこば「せやなあ、誰かて、カンは嫌いや」(爆)
 ざこば「おおきに、ありがと、もうしもといて」
 佐渡 ピットにお盆を下げる
 ざこば「これ、カンおろし」(爆)
 とまあ、こんな調子である。

前半の挿入曲はお決まりの「雷鳴と稲妻」、後半は皇帝円舞曲、ピッツィカートポルカ、トリッチ・トラッチ・ポルカと盛り沢山。最後の監獄の場面でアルフレードとフロッシュの掛け合いで飛び出すのは「千の風になって」という、大阪ならではのハチャメチャぶりだ。

極めつけは、カーテンコール、ごく普通に始まったかと思うと、指揮者が登場するタイミングで佐渡さんはまだピット、そこからが宝塚風のグランドフィナーレの始まりだ。舞台に登場したダンサーの間からコヴァルスキーが歩みだし「ウィーン、わが夢の街」(ジーツィンスキー)が始まる。順番に現れる登場人物が次々と歌う。そこに出てこなかった宝塚スターの剣幸が、PA付きで「ただひとたび」(ハイマン「会議は踊る」より)。と、続いてラデツキー行進曲、そして最後に「こうもり」に戻って「我ら手を取り」で長いフィナーレが幕。コヴァルスキーはルートヴィヒ二世を摸した衣装だし、女優イーダ役の剣幸は王妃エリーザベトの肖像の衣装とそっくり。きっとそのつもりなんだろう。電車で20分、西宮と宝塚、これぞ阪急今津線コラボということか。宝塚のファンがどの程度来ているのかは不明だが、オペラ初めての人も多いでしょう、たっぷり楽しんでお帰りくださいという感じかな。

奇妙な公演である。今回が最後のオルロフスキー役というコヴァルスキーを招いているのに日本語上演だ。時々日本語で掛け合いはあるものの彼の歌唱は当然ながらドイツ語だ。日本語歌詞も字幕付きなのだし、台詞は日本語、歌はドイツ語とするほうがよほどすっきりすると思う。なまじ日本語がわかるので、言葉のリズム、イントネーションと合わない訳詞の部分が耳について仕方がない。歌い手にしても台詞を覚えるのは難儀とはいえ、ドイツ語のほうがよほど歌いやすいのではないかな。特に、佐々木典子さんなんてそうだろう。どの配役もそれなりの人を揃えているのに、このような上演方法が歌を心底楽しめないことに繋がっているのだとしたら残念なこと。そんな中で耳に残ったのは小林沙羅さんのアデーレかな。

まあ、種々考えた結果、総合エンターテインメントとして舞台にかけるのがいいとの判断なのだろう。8公演を打って客席が埋まれば文句なしとも言えるのだが、オペラ好きからするとどこかに釈然としないものが残るのは否定できない。歌も踊りも芝居も、みんな楽しめて素敵とするのか、どれも70~80点というのではつまらないとするのか。ここは人それぞれだ。すべて満点なら言うことはないが、他は目をつぶっても歌が100点なら自分は迷わずそちらを取る。ニューヨークにいた頃、ミュージカルは一度観ただけで二度と足を運ばなかったことを思い出す。

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