大野和士/京都市交響楽団のマーラー ~ 祇園祭スペシャル
2011/7/24

「おーい、K君、これあげるから聴いといで」と京都に住む職場の若い人に6月のチケットを進呈、それはラザレフがキャンセルとなった定期演奏会だった。「で、ひとつお使いを頼みたいんだけど」と7月定期の予約チケットの引き取りをお願いする。発売日に京都市交響楽団のサイトで即ネット予約、前に買い損ねたことのある大野さんの客演だ。案の定、今回もすぐに完売、普段は空席が目立つ北山のコンサートホールなのに、この人の場合は特別だ。

マーラー:交響曲第3番ニ短調
   手嶋眞佐子(メゾソプラノ)
   京響市民合唱団
   京都市少年合唱団
   指揮:大野和士

祇園祭の頃の京都はくそ暑いし、人だらけで敬遠するのだが、そのエリアは地下鉄で素通りする。日曜の午後、曇りがちもあってこの時期の京都にしては涼しいほう。

季節はずれの「こうもり」を観たのは一週間前、こちらは夏の交響曲、時節ものだ。 と言っても夏に聴いたことはないし、そもそも没後100年とかの記念の年でもなければ演奏されることも少ない。行かなかったが西宮でも同じ曲をやったばかり、重なることなんて稀有のことだ。

今日の席は舞台下手のバルコニー、目の前は2台のハープ、8本のホルンの朝顔もこっちを向いているぞ。コーラスはPゾーンの後方なのでいいにしても、ソリストは背中側で聴くことになる。まあ安い席を買ったのだから、それは仕方ない。

予想どおりと言うか見てのとおり、いきなり8本のホルンが冒頭の旋律を高らかに奏でる。これは面白いポジションだ。大音響が襲いかかる一方で微細なハープの音もちゃんと聞こえる。まあオーケストラの中で聴いているようなもの、不思議な音響だ。正面で聴いていたなら気づかない音も拾えるのでとても面白い。多用される木管群のベルアップの角度も横から見ているので、音ばかりでなく視覚的なメリハリもある。もちろん、暗譜で振る大野さんの指示の出し方や表情もよくわかる。安い席にもそれなりのメリットがあるということ。

全6楽章、長さを感じさせない演奏だった。音楽の流れがとてもスムースだ。大野さんの指揮ぶりもそうだが、奇を衒うところは一切ない。このシンフォニーが持つ伸びやかさ、明るさ、清澄さが自然に伝わってくる。両端の長い楽章、分けても終楽章に表現の力点を置いていることがはっきりと判る。それまでの楽章を手抜きしている訳ではなく、最終楽章に向かって積み重ね、起伏を越えて辿り着く境地という印象の100分間、とても聴き応えのある第3交響曲だ。

舞台裏も含め破綻のない金管群の出来が預かって大きい。この位置で聴いていながら各楽器のバランスの良さを感じるのは意外でもある。体調不良で降板した小山由美さんに代わり第4楽章のソロを歌った手嶋眞佐子さんの声が後ろでも充分に聞こえたことに驚く。不思議だ。彼女の発声の良さだと思うし、もともとオーケストラを抑えている部分でもあるが、やはり劇場の経験が豊かな大野さんの声に対する愛情なのかとも思う。

昨年末の「トリスタンとイゾルデ」のときはあまり体調が優れなかったと聞いたが、今回はプレトークを聞いていてもすこぶる快調、祇園祭に繰り出す元気もある様子、そういうところは演奏にも現れるものだ。こんな幸せなマーラーを聴くにつけ、美味しい料理があって、いつも大野さんの演奏が聴けるリヨンの人が羨ましい。

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