かぶとやま交響楽団の「フィガロの結婚」 ~ 今年は隣で
2011/9/19

ここ数年、この季節になると伊丹で珍しいオペラを観るのが通例になっているが、今年は予定が重なり見送りにした。今年、珍しいことでは超弩級、ツィアーニ作曲の「ロードペとダミーラの運命」という作品が10月2日に予定されている。

その会場である伊丹アイフォニックホールの隣、いたみホールで対極にあるようなお馴染みのオペラを観る。元の職場の同僚が所属しているアマチュアオーケストラの定期演奏会だ。以前に一度だけ聴いたことがあるが、今度は初めてオペラに挑戦するという。演奏会形式、抜粋というところから話が大きくなり、レチタティーヴォ・セッコまで含めほぼ全曲、しかも簡単な装置と演技まで付けてというところまで発展したのだそうだ。

フィガロ:坂上洋一
 スザンナ:渡辺有香
 アルマヴィーヴァ伯爵:落合庸平
 アルマヴィーヴァ伯爵夫人:山守美由紀
 ケルビーノ:白石未来
 バルトロ:林康宏
 マルチェリーナ:村岡裕子
 ドン・バジリオ:藤田大輔
 ドン・クルツィオ:中安公則
 バルバリーナ:吉村千秋
 アントニオ:大河内輝夫
 合唱:森の宮ライゼコール
 管弦楽:かぶとやま交響楽団
 指揮:藤田謹也
 演出:籔川直子
 副指揮:中安公則(歌唱指導・合唱指揮兼任)
 コレペティトゥーア:西尾麻貴

いたみホールは初めて。客席とオーケストラを仕切る壁はないが、舞台から一段下がってピットがある。ホール自体は1000人規模なので、オーケストラの規模や演目からすると、もう少し小さめのホールでもよいような気もするが、シーズン休日の会場探しだから利用料金や立地などいろいろと苦労があるのだろう。自由席、間際に到着したので1階はほぼ埋まっており、2階中央3列目で聴く。

春から始めたという練習量の豊富さが窺える。定期演奏会にかけるアマチュアの強み、オーケストラはしっかりしている。一部のパートには少々弱いところも見受けられるが、過剰な要求は酷というもの。通常の演奏会の2倍以上の長さ、いくつかのナンバーをカットしただけの舞台上演をやってのけた意欲と成果を称えるべきだろう。

歌い手は関西の若手プロの人たちだという。プロフィールを見ると、今第一線にある人に師事とか書かれているので、これから第一線を目指す人たちだと思う。彼らにすればオーケストラ伴奏のオペラ上演で役を演じる、歌うという機会自体が多いわけではない。それだけに、それぞれの人の強い意欲が感じられる熱演だった。ただ、このまま第一線に立てるかとなると、それぞれに克服すべきテーマがありそう。それが達成できれば、舞台で姿を見る機会も増えてくるのではないだろうか。

誘ってくれた同僚がお勧めだった伯爵夫人役の山守美由紀さん、彼女はなかなかよい。印象では、伯爵夫人とスザンナの中間に位置するような感じか。伯爵夫人はレチタティーヴォやアンサンブルと二つのアリアの音楽のレベルが段違いで、ここでは登場人物中で群を抜いた表現力が要求されると思う。彼女がスザンナから伯爵夫人に脱皮するには、声と表現の深みをさらに獲得してほしいところ。

スザンナの渡辺有香さんは、最初は硬くなっていたのか、あまり声が出ていなかったが、徐々にエンジンがかかってきた感じ。レチタティーヴォやアンサンブルもしっかりしていたし、スーブレットらしいチャーミングな動きもよい。一方、終幕のアリアはもう少ししっとりした情感がほしい。ここはスザンナではなく伯爵夫人なのだから、歌にもそれが出ないといけない箇所だ。近々マーラーの第4交響曲のソリストを務めるようだが、軽い声で表面的には適合するにしても、ここのアリア同様にあのソロパートにも奥行きが必要だと思う。

フィガロの坂上洋一さんは狂言回しの役回りで熱演。歌って演じての大活躍。この人の課題は音質の安定だろうか。ひょっとしてテノールではないかと思うところもある。バリトンの音質とテノールの音質が交々で、どっちつかずの感じがあるので、各音域にわたってバリトンの声に寄せていくことが必要なのかと思う。

ケルビーノの白石未来さんはちょっとしんどいところ。テンポの問題もあったが、最初のアリアでは全く音楽に乗れていない感があった。二つ目のアリアも難しいものでもないのにいっぱいいっぱいというのは残念。

そのほかの男声陣は好演。アルマヴィーヴァ伯爵の落合庸平さんは終始安定していたし、バルトロの林康宏さんの登場のアリアはなかなかの出来だった。バジリオの藤田大輔さんもブッファにぴったりの声と歌だ。マルチェリーナの村岡裕子さんは声は出るようなのに、口跡があまりよくない印象。合唱の森の宮ライゼコールの人たち、彼らもアマチュアだと思うが、かなり緊張気味の様子だった。

オーケストラやスタッフの人たちにとって、それぞれ忙しい本業の傍らで準備を重ねるだけでも大変なことだろう。好きなことだからやれるというところはあるにしても、初挑戦のオペラでこれだけ立派な演奏を披露するというのは苦労も多かっただろうと思う。

実はこの「フィガロの結婚」というオペラ、世間では傑作と言われるのに、私自身は一週間分の朝ドラを続けて見せられるような感じ(ドラマの進みの緩急がなく、無駄な部分が少なくない)で、いつも退屈してしまうので心配したが、ピットも舞台も一切手抜きなし、休憩を挟んで3時間、しっかり聴かせてもらった。

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