新国立劇場「こうもり」 ~ 面白さは西高東低
2011/12/4
これからの季節の気圧配置じゃないが、どう見ても西高東低の「こうもり」だった。夏に西宮北口で、冬に初台で、年に二度も「こうもり」を観ること自体が異例だが、内容は対照的と言ってもいい。
西宮の公演が噺家や宝塚レビューまで、てんこ盛りのエンターテインメント路線まっしぐらという感じなら、こちらはオペラハウスが唯一取り上げるオペレッタ「こうもり」トラデイショナルスタイルだろう。だからといって、これが芸術性追求に徹したものかとなると疑問で、国立の威信にかけた高水準のオペラ上演とはとても言えない。舞台も裏方もやる気満々、とにかく面白くて8公演が札止めになった西宮の後塵を拝しているというのが、私の率直な評価だ。本当は受け狙いの要素を極力排除して音楽そのもので勝負するほうが私は好ましいと思うのだが。
アイゼンシュタイン:アドリアン・エレート
ロザリンデ:アンナ・ガブラー
フランク:ルッペルト・ベルクマン
オルロフスキー公爵:エドナ・プロホニク
アルフレード:大槻孝志
ファルケ博士:ペーター・エーデルマン
アデーレ:橋本明希
ブリント博士:大久保光哉
フロッシュ:フランツ・スラーダ
イーダ:平井香織
合唱:新国立劇場合唱団
バレエ:東京シティ・バレエ団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
指揮:ダン・エッティンガー
演出:ハインツ・ツェドニク
美術・衣裳:オラフ・ツォンベック
オルロフスキー公爵役に予定されていたアグネス・バルツァが降板、久しく聴いていないので今どの程度歌えるのか知らないが、彼女に代わって起用されたエドナ・プロホニクがこの公演のピカイチではなかったかな。美貌、長身で均整のとれた体から出る声は魅力的で、この人がタンクレーディあたりをやったら舞台映えすることこの上ないだろうと思ったりする。
ロザリンデのアンナ・ガブラーという人は、ここで歌うにはちょっと厳しいレベルだろう。声が安定しないし、聴かせどころの歌のスケール感が全くない。
アデーレの橋本明希という人は聴いたことがない人だと思うが、アリアはきっちりと綺麗にまとめて、そういうことで起用されているのだろうけど、全編通しての歌や演技ではずいぶん物足りない。主役といっていい役柄なのに存在感が希薄だ。
男声陣は芝居重視という配役で、それなりに好演といっていいのだが、如何せん、オルロフスキーは別として肝心の女声陣が非力ではオペラとしては楽しめない。
このプロダクションを観るのは二度目、演出はごく普通で平凡。鬱陶しくもないので良しとしても、ピットも同じような感じではなかなか盛り上がらない。まあ凡庸ではあっても、盛大にブーイングするほどとは思えないのに、ダン・エッティンガーが舞台に登場するたびの執拗な繰り返しはちょっと異様だ。スポーツの試合で憎まれ役の特定選手の登場に対して上がる声と同じで、その選手の目の前のプレーに対するブーイングではない、つまりライブの反応ではないところに強い違和感がある。言わば、俺はこいつが大嫌いだという類のものだ。わざわざその示威行動のために来るというのは物好きなこと、端からネグレクトしてチケットを買わなければいいのに。