OEKニューイヤーコンサート ~ 大阪人も真っ青
2012/1/12

2012年最初のコンサートはいずみホールということに。それも主催公演ではなく貸館公演、オーケストラ・アンサンブル金沢が地元のほか東京、大阪、札幌と回るニューイヤーコンサートだ。

モーツァルト:歌劇「魔笛」序曲
 モーツァルト:ピアノ協奏曲第26番ニ長調K.537「戴冠式」
 ベートーヴェン:交響曲第5番ハ短調 op.67「運命」
    * * *
 ベートーヴェン:交響曲第8番ヘ長調 op.93 第2楽章
 久石譲:「坂の上の雲」のテーマ "Stand Alone"
   ピアノ:モナ=飛鳥・オット
   指揮:山田和樹

このコンサートツアー、各地でしっかりスポンサーを確保しているようで、大阪はさながらレンゴーの取引先招待コンサートの様相だ。数少なくなってしまった大阪本社の有力企業、段ボールの最大手会社で、取引ベースはあらゆるメーカーを網羅しているはず。エントランスに足を踏み入れたら、ホワイエに同社の役員・部長・営業担当者とおぼしきダークスーツの人たちがずらり。何だこりゃ、貸し切り・関係者限りではないはずだが…
 そう言えばチケットを購入するとき、いずみホールのチケットオフィスで、「これは一般売りが少ないんです」とか言われた気がする。そういうことなのか。

あれれ、ミッチーの姿まであるぞ。音楽監督も巡業に同行なんだ。井上道義氏、この人はえらい。序曲の後、ピアノ協奏曲の舞台設営のインターバル、客席からハンドマイク片手に舞台に飛び乗り、座持ちのトークで沸かせる。「山田君は33歳、僕もその頃はあれぐらい髪があった」とか、自虐ネタも交えつつ、しっかりスポンサー名にも言及するあたり立派なセールスマンだ。プログラムの片隅に、コンサートミストレス使用のストラディヴァリはレンゴーからの貸与という記述があるぐらいなので、有り難いパトロンになっているのだろう。福井県には大きな工場があったはずだが、石川県にもあったのかな。

ソリストは芳紀20歳、ピアノはお姉さんと比ぶべくもないが、姿形はそっくり。休憩時間にはドレスのままホワイエで、スポンサーの面々に愛嬌を振りまくというサービスぶり。仕掛け人は誰なんだろう。大阪名物の凄腕営業マン、西濱秀樹氏(前・関西フィル事務局長)あたりだと平気でやりそうなことなんだけど…

プログラムもまた憎い配慮だ。クラシックのコンサートに縁のない人が過半ということを見越して、モーツァルト、ベートーヴェンと、馴染みのある作曲家が並ぶ。ソリストには若くて美人のピアニストを起用し、華やかさを前面に出す。メインのジャ・ジャ・ジャ・ジャーンは誰でもそこだけは知っている。それでも2時間も聴いていると退屈するのは仕方ない。なので、最後にNHKスペシャルドラマのテーマ曲を置く。客層はあの番組の視聴層と完全に重なっている。「ああ、最後のあの曲は良かったなあ」で気持ちよく帰ってもらえば、スポンサーも招待した甲斐があるというもの。そして、次に向けてスポンサーの財布の紐もきっと緩むはずだ。

コアなファンからすれば「ベートーヴェン第5のあとにアンコール、しかもテレビドラマのテーマだって!」となるところが、しっかり第8のアレグレット楽章で緩衝する。お見事。

これは批判でも揶揄でもない。これぐらいのことを在阪オーケストラもやったらいいのに。それというのも、この種のコンサートなら手抜きしても凌げるのに、メインのベートーヴェンの演奏は客層のことなどお構いなしの力演だったから。これぞ賞賛に値する。一般売りでチケットを買った聴衆もそれなりにいたようで、第5の終結のあとは歓声が飛んだ。指揮ぶりは地味なほうだけど、実にイキのいい音楽だ。この人がいま引っぱりダコなのも判る気がする。

このオーケストラ、コンサートで聴くのは初めてかも知れない。二管編成にも足りない規模だと思うが、その都度客演を入れているのだろう。前半のプログラムでは管楽器など個々の音があまり美しくなく、やはり地方オーケストラかなとの印象が強かった。それが後半で気にならなかったのは、演奏の緊密さが上回ったせいかも知れない。後半の楽員の配置が、広いは言えないいずみホールの舞台の中央に密集させて、両袖に大きなスペースを残したレイアウトだったこととも関係があるかも。

ベートーヴェンはメリハリの効いた演奏だ。楽章のコーダ部分に代表されるテンポの切り替えのシャープさ、歌うところは歌わせ、突っ込むところは突っ込む、ごくノーマルなアプローチだし奇を衒うものではない。自然な呼吸で音楽が流れて弛緩することはない。山田和樹という人、これからどんなふうになるか楽しみな指揮者だろう。舞台作品まで手がけることがあるのかどうか、そこで真価が発揮できればだけど。

コンチェルトはごく素直のモーツァルトという印象。お姉さんのアリス=紗良・オットと比べちゃ可哀想だけど、それも姉妹の宿命だろう。綺麗な音でオーケストラと一体化するのがいいのか悪いのか、溢れ出す個性といったところは希薄なのが残念。ピアニストだけのアンコールがあるのかと思ったら、もともと予定していなかったようで、客席はやや拍子抜けの雰囲気。それが休憩時間のホワイエでの営業活動に充てられたんだろうか。

会場に置かれていたOEKの情報誌「カデンツァ」、パラパラとめくっていたら7月に初客演の指揮者の名前が二つ、ダニエル・ハーディング、マルク・ミンコフスキ、えっと思わず声が出そうになる。うーん、後任音楽監督さえ決められず補助金削減反対を叫んでいる在阪オーケストラがちょっと情けない。

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