大植英次/大阪フィル定期 ~ 音楽監督の仕事
2012/1/26

90歳のマエストロが指揮台に立つはずだった定期演奏会、ゲルハルト・ボッセ氏は体調不良によりキャンセルとなり、代わりが大植英次氏となった。高齢でも元気な指揮者は多いし、ボッセ氏もその一人だが、大腸癌に加えて心臓病の悪化ということなので無理は禁物だろう。当初のプログラムはボッセ氏がコンサートマスターを務めたライプチヒゆかりのメンデルスゾーン、スコットランド交響曲がメインだったが、ベートーヴェンに差し替えとなった(ドキッとするところもあるが)。経緯は大阪フィルのプログに詳しい。こんなときにこそ代演を引き受けるのが音楽監督の責任と言うのは簡単だが、スケジュール調整は大変だったろう。大植氏自身もこれまでに定期演奏会をキャンセルしたことがあるから、奇しくも任期の最後に埋め合わせということだったのかも。

ハイドン:交響曲第92番ト長調「オックスフォード」
 ベートーヴェン:交響曲第3番変ホ長調「英雄」
   指揮:大植英次

指揮者交代が直前だったせいか、この情報はあまり行き渡っておらず、音楽監督が振る定期演奏会は満員盛況なのにこの日は少し空席が見られた。それでも、常連に加えて地獄耳の学生・年寄りが、当日残席がある場合に発売される優待チケットを求めて普段より長い列が出来た。かく言う私も「年寄り1枚!」と、運転免許証と千円札1枚を窓口に提示するシニア券組だ。ありがたや、二階中央の6000円のA席、爺になっていいこともある。

演奏はと言うと、これがなかなか興味深い。ハイドンの配置はびっくりするようなものだった。弦は10-8-6-4-2で、低音を3-2-1で両翼に配置するという初めて見るスタイル。これが初演時の配置だったらしい。輪郭のくっきりとしたハイドンである。各楽器の音がずいぶんとクリア、低音部が包み込むなかで、掛け合い、受け渡しなどの面白さが味わえる。

このハイドンのあとエロイカを聴くと、ベートーヴェンはずいぶんどぎつい音楽を書いているのがよく判る。スフォルツァンド、シンコペーションの多用、ダイナミックスの変化の激しさ、これはあの時代には驚天動地であったんだろうなあと思える。当たり前に聴くベートーヴェンが革新者であったことを今さらのように気づく。

テンポはけっこう快速、滑らかに仕上げるというアプローチとは異なるかなり尖った演奏だった。これはなかなか刺激的、ハイドンと同様に音を短めに整えて重ね繋いでいくという印象で、厚ぼったくなりがちだった近年の大植氏の演奏のイメージと違い、贅肉を落としたような筋肉質のサウンドだ。音楽監督就任の頃に感じた清新さが蘇った気がする。退任も迫っている集大成の時期、尊敬する指揮者の代演、気迫充分で望んだコンサートが引き締まった演奏を生んだのかも知れない。

2月が音楽監督としての最後の定期演奏会で、こちらは早々に完売。それを入手していない私としては、秀演の予感はしたとは言え、寒いなか当日券の行列に並んだ甲斐があるというもの。

3月31日に音楽監督としてのファイナルコンサートが予定されている。コンサートマスター長原幸太氏の退団もこの日だ。音楽監督不在の来期プログラムは発表済だが、行政からの補助金削減もあり大阪フィルにとっても厳しいシーズンとなりそうだ。いい演奏をすればファンはついてくる。逆境に負けない頑張りを期待したい。

会場ではファイナルコンサートに向けてのアンケート用紙が配られていた。ファンの声でプログラムを決めるとのこと。私は一足先に用紙をダウンロードして郵送しておいた。私の希望などボツになるに違いないにしても、どんなプログラムになるのか楽しみである。

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