井上道義/OEKのショスタコーヴィチ14を聴く ~ 初めての青春18きっぷ
2012/3/3

還暦にして初めて青春18きっぷを買う。年齢関係なく誰でも使えるとは知っていても、鈍行列車でトロトロというのは勤め人では難しい。そういう点では私もそろそろ青春18きっぷ適齢期。5回分で11500円、1回あたり2300円、それで大阪・金沢を往復すれば乗車券を普通に買えば9240円だから十二分に元が取れる。残った4回分はオークションで転売のつもり。3月1日から4月10日という有効期間だから、買い手は見つかるだろう。その上、これはプレミアムアイテムの"赤い"青春18きっぷだ。もちろんその付加価値まで考慮してわざわざJR奈良線の田舎の駅まで買いに行ったのだから。

譲渡が完了しないと今回の運賃は確定しないが、私の読みでは正味交通費は2000円を切る。そしてコンサートのチケットは500円なので、片道5時間かけて行ってもトータルコストでは大阪市内の公演より安くなるかも知れないぞ。なんだか体を張った節約という感じもするが。

ビゼー/シチェドリン:カルメン組曲
 ショスタコーヴィチ:交響曲第14番ト短調
 ソプラノ:アンナ・シャファジンスカヤ
 バス:ニコライ・ディデンコ
 指揮:井上道義
 オーケストラ・アンサンブル金沢

石川県立音楽堂、500円という格安料金は3階バルコニーの席、スターライトシートという呼称だ。東京文化会館の5階サイドバルコニー舞台寄りと同じで、前列だとちょっと恐怖感がある。しかし音は悪くない。高いところが苦手な人には不向きだが、こちら、そんなことは頓着しないからOK。客席の入りは上層階は良くなくて全体の7割行ったかどうかという感じだ。

この選曲、ロシアもの、ソヴィエト体制下で抑圧された作曲家の作品というだけでなく、管楽器抜きで小編成の弦とパーカッションだけで済むというOEKには打ってつけのプログラムだ。カルメン組曲の配置がずいぶん変わっている。舞台奥に三段横一列に弦楽器が並び、前方に打楽器群が指揮者の周りを囲む。打楽器奏者は一人で複数のものを担当するので、目まぐるしく動き回る。井上さんはといえばいつもの調子で、ときにコミカルな大振りなアクション、視覚的にも楽しんでもらおうというサービス精神があふれている。

初めて聴いたがカルメン組曲は面白い。舞台のオーケストラが見える実演だからなおのこと。カルメンの聴き慣れた音楽が上手く料理されていて楽しいし、繋ぎの「情景」のシチェドリンのオリジナルとおぼしき音楽も冴えている。管楽器を使わないことで原曲と距離を置いて作曲したことが成功をもたらしたのだろう。

開演前にチェロとピアノによるロビーコンサートが行われていた。コーヒーを飲みながら途中から聴いたが、最後に演奏されたのがショスタコーヴィチの第14交響曲の第2楽章である。もちろん編曲だが、あれをインストゥルメンタルでやるとこんなふうになるのかと楽しい。

そして休憩後の本番、予定されていたバス歌手の交代が早くに発表されていてプログラムは既に差し変わっていた。二人の歌手、なかなかいいのである。体も大きいが、この声の厚みと深さ、ロシアものにはやはりお国の人を連れてこないと難しいのかも。
 舞台奥に字幕パネルが下りてきて、かなり大きめの文字が投影される。キョロキョロしなくていいし、歌との時差が少なくなるので大変にいい。

全部で11の楽章、死をテーマにした詩ということでは共通するにしても、複数の詩人の作品を使っているだけに全体としての統一性には欠ける。マーラーの「大地の歌」だってそうなんだけど、まだあちらは音楽の一貫性があるように思う。詩ではなくショスタコーヴィチの音楽の問題か。もちろんショスタコ節は通底しているのだけど、曲想の振れが極端である。とは言え、やはり傑作の範疇には入るのだろう。前半のマラゲーニャ、ローレライ、自殺した女と続くあたりがショスタコーヴィチの真骨頂だ。「大地の歌」の引用も出てくるので作曲者はしっかり意識していたことが判って面白い。

この交響曲もチェレスタなどが加わるにしても基本は少人数の弦とパーカッション、管楽器がない分、オーケストラのバランスは取りやすい部分がありそう。もちろん、井上さんはじめOEKのメンバーが気合いを入れて臨んだ公演ということだろう。明日も東京でOEKが、来週は歌手はそのままに西宮でPACオーケストラと三日連続で定期演奏会となる。もちろん西宮にもいくつもりなので、その間にさらに演奏が練れてくることを期待したい。

金沢到着が12:25、コンサートが済んだら17:16発の敦賀行で帰路につく。結局、金沢滞在は5時間足らず。公演前に近江町市場に立ち寄って海鮮丼を食べただけが観光ということ。滅多に聴けない作品が並ぶコンサートを聴き、ついでにてっちゃんを満喫、まあ目的意識がはっきりしているので、青春18きっぷの旅もまた楽し。

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