日本センチュリーのカルミラ・ブラーナ ~ 大入りを言祝ぐ
2012/4/19

客席が埋まっているのにちょっとびっくり、アマチュアコーラスを入れるとその身内の動員が期待できるというのは年末第九の常套手段だけど、そんなに著名作品でもないから、きっと楽団側はしてやったりだろう。もっとも、大編成のオーケストラになるので相当数のエキストラも必要だから、採算がとれるということもないだろう。それでも、大阪府からの独り立ちを余儀なくされた日本センチュリー交響楽団、意気軒昂というところか。このソリストたちの名前が並んでいるからには行かない訳にはいかない。私にとっても、しばらくインターバルがあって、新年度になってこれが初めてのコンサートだ。

ベートーヴェン:交響曲第1番ハ長調作品21
 オルフ:世俗的カンタータ「カルミナ・ブラーナ」
 ソプラノ:幸田浩子
 テノール:高橋淳
 バリトン:三原剛
 合唱:大阪センチュリー合唱団、神戸市混声合唱団、岸和田市少年少女合唱団
 管弦楽:日本センチュリー交響楽団
 指揮:小泉和裕

ソリスト、オーケストラは期待通りというところ。コーラスには不満もあるが、この長丁場の作品でほとんど歌いづめという事情を考慮すれば健闘と言ってもいいかな。

当たり前のことだが、ソロを歌うプロとコーラスのアマの違いは大変なものだ。幸田浩子さんの歌は、いつも以上にふくよかな美声がサイドバルコニーの私のところにまで充分に伝わってきて大変に心地よい。対照的に高橋淳さんはキャラクターテノールの面目躍如、やり過ぎと思うぐらいに滑稽さや醜悪さを表現する。出番が短いということもあってか、この人だけが暗譜、そりゃそうだ、オペラの舞台さながらのアクション付きの歌唱では楽譜なんぞ持っていてはやれるはずもない。出番の多いバリトンソロ、三原剛さんは関西ではお馴染みの人で、もうずいぶん前から第一線にある人だが、注目され始めた頃と比べても私にはあまり進歩が感じられない。悪い歌唱とは言えないにしても、逆に声の密度が薄くなったように聞こえるのが気になる。

オーケストラは三管の大編成ともなると、普段の日本センチュリー交響楽団の演奏会とは比べようもなく厚い響きとなる。小泉和裕さんの明快な棒さばきもあって、シャープでメリハリの効いた演奏は好感が持てる。この曲は音響の坩堝にしてしまうような演奏もありそうだが、節度をもって抑えるところは抑えてという感じだ。それが1時間に及ぶ大曲を退屈せずに聴けることに繋がる。オルフに先立つベートーヴェンは半分ぐらいの人数の演奏で、これがこの楽団の楽員数に近いと思うが、こちらも同様にすっきりした仕上がりとなっていた。ベートーヴェンにしても戦争交響曲なんて俗っぽい作品を書いているぐらいだから、二人の作曲家の取り合わせがヘンということもない。

コーラスは三団体、うち一つは子どものコーラスだから、二団体の混成チームということになる。終わりに近くなるにつれて焦点が合ってきて尻上がりではあったが、初めはどうなることやらという感じだった。ラテン語の歌詞らしいが何語で歌っているのかさっぱり判らない。発音云々というよりも微妙に合っていないのだ。それと多人数になると、ちょっと発声に問題のある人も混じるのが避けられないようだ。そういったことが聴いていてフォーカスの甘さを感じる原因かも知れない。だんだん良くなったので、その逆であるよりは遙かにいいとは言えるが。

とまあ、全く初めて聴く曲だけど、執拗な繰り返しのせいか判りやすい曲だ。編成の問題もあって、あまり演奏会で取り上げられることもないから、今回実演で接することが出来たのはよい機会だった。

(4/24追記)

大阪センチュリー交響楽団の時代、大阪府からの支援がカットされ苦境に陥ったとき、この楽団は芦屋の老婦人の遺贈を受けて一息ついたということがあった。そして、またも年間2億円という救いの手が。今度は個人ではなく法人だ。近畿産業信用組合というのが名乗りをあげたスポンサー。1953年に京都で生まれた日本芸術家信用組合がルーツというから相応しいような気もするが、天王寺区の学校に通っていた私には大阪興銀の現在の姿がこの金融機関だと言われたほうがピンと来る。ここの今の会長は京都のMKタクシーの青木定雄元会長ということも知らなかった。何かと問題の多かった韓国系信組の印象のほうが強いせいで、年間2億円もの支援を継続して行なうほど経営改善が進んでいるとは正直意外だ。ともあれ、存続自体が危ぶまれている楽団にとっては僥倖ということになろう。法人からの寄付は損金扱いとなる公益財団法人に日本センチュリー交響楽団が移行したこともプラスに働いたのだろうと思う。これで安泰とはいかぬまでも、ずいぶんと楽になることは間違いない。演奏面で良い影響が出ることを期待したい。

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