大植英次/大阪フィルのマーラー第3交響曲 ~ フェスティバルまであと1年
2012/5/10

中之島のフェスティバルホールのビルの外観はほぼ完成している。フェスティバルホール部分の外壁は昔どおりだ。一新してもよさそうなものだけど、オールドファンへの配慮なのだろうか。大阪国際フェスティバルは建替に伴う休止の前から予算の制約で淋しい内容になってしまっていたので、再開を機にファンの耳目を集めることを期待したいもの。フェニーチェ歌劇場の「オテロ」がこけら落としだそうだ。休止期間中にも特別公演別の会場で細々と行われていて、この日のコンサートもそのひとつ。西宮や京都の公演が大阪国際フェスティバルと言われてもねえという気もするが。

マーラー:交響曲第3番
  独唱:アネリー・ペーボ
  女声合唱:大阪フィルハーモニー合唱団
  児童合唱:大阪すみよし少年少女合唱団
  大阪フィルハーモニー交響楽団
  指揮:大植英次

ソリストに予定されていたゲルヒルト・ロンベルガーは体調不良のため交代、ドイツ人なのでつい放射能怖い病かと思ってしまうが詳細不明、代わりのアネリー・ペーボはエストニアの人のよう。どちらも知らない人で私には関係ないし、ペーボは素晴らしい声だったし、この交代は全く問題なし。ムラのない豊かな声で、第四楽章、第五楽章の表情の違いもきちんと伝わってくる。鮮やかなブロンドに真っ赤なドレス、大柄で舞台映えのする人だ。第五楽章の合唱もよい。女声コーラスは各パートともかなり大阪音楽大学から補強したようだ。

大植さんは第5交響曲を定期演奏会で取り上げたとき、猛烈に遅いテンポで物議を醸したことがあるが、冒頭の9本のホルンによる主題の提示を聴いたら、その再来ではないかと思った。ゆっくりしているだけでなく、数小節のあいだのテンポの揺れがかなりのものだ。この調子で第一楽章を演奏したらどれだけ時間がかかるのだろうと思うほど。しかし、35分程度で終わったから、あのときみたいな超スローテンポということではなかった。それでもかなりねちっこい演奏だ。以前に定期演奏会でこの曲を取り上げたときとはずいぶん印象が違う。音楽監督を離れて初めての演奏会のはずだが、そう思って聴くせいか多少の疵や乱れに頓着せず音楽を進めるような印象を受けた。両端の楽章に指揮者として力が入っているのは間違いないが、真ん中に挟まれた楽章も力の抜け具合がよい。

京都での仕事のあと、阪急電車を乗り継いで西宮まで駆けつけた。車内で15分ほど居眠りしたおかげか、100分のシンフォニーをしっかり聴き通すことができた。もちろん、演奏自体が熱をもっていたからであることは言うまでもない。

「チケットを売り切る劇場 兵庫県立芸術文化センターの軌跡」という最近出た本を読んだ。西宮のホールが何故これほど成功したかということが、種々の角度から分析されている。当事者の手になる本なので手前味噌的なところがあるにしても面白い。
 今回は大阪国際フェスティバルの事業で芸文は共催の立場、チケット販売にどう関与しているのか詳らかでないが、芸文の主催公演は価格設定が安めである上に販売枚数に限度を設けていないことが多く、必要枚数以上に購入する地元の人が多いという事情もあるのではないだろうか。友だちに声かけして一緒に聴く、それが新たな聴衆を生むという好循環だろう。皮肉な見方をすると売れ残りリスクをさっさと購入者に転嫁しているという部分もあろう。私はオークションで定価落札のことが多く、これだと芸文で購入して郵送してもらうより安くつく。ここのシステムの恩恵をそんなかたちで受けているわけだが、もちろんそんなことは本には書いていない。

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