新国立劇場「ローエングリン」 ~ 巡り合わせか
2012/6/16

あまり上演されないのに一度ならず観ているオペラがある一方で、有名なのに一度も舞台を観ていないメジャーな作品もある。たとえば前者が「アッティラ」、「真珠採り」、「アラベラ」あたりで、後者の筆頭が「ローエングリン」だ。主要オペラハウスのレパートリーに入っているワーグナーの「さまよえるオランダ人」以降で、私が唯一舞台上演に接したことのないのが「ローエングリン」、観た作品数は優に三桁なのに、たまたまということなのだが不思議な気もする。

以前、新日本フィルの定期演奏会で聴いたことはあるのだが、あれは舞台上演ではなかったし、自分が風邪引きで体調は万全にほど遠かった。そして、評判が高い今回の新国立劇場公演の千秋楽、事情あって第二幕まで観ただけ。どうもこのオペラとは相性が悪いのだろうか。まあ、また観る機会もあるだろうし、先の楽しみにとっておこう。

ハインリヒ国王:ギュンター・グロイスベック
 ローエングリン:クラウス・フロリアン・フォークト
 エルザ・フォン・ブラバント:リカルダ・メルベート
 フリードリヒ・フォン・テルラムント:ゲルト・グロホフスキー
 オルトルート:スサネ・レースマーク
 王の伝令:萩原潤
 4人のブラバントの貴族:大槻孝志/羽山晃生/小林由樹/長谷川顯
 合唱:新国立劇場合唱団
 管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
 指揮:ペーター・シュナイダー
 演出:マティアス・フォン・シュテークマン
 美術・衣裳:ロザリエ
 照明:グイド・ペツォルト

主要な役どころは全て来日組で固めて国内組が脇役に回る。ここまで徹底したキャストも最近では珍しい部類だろう。来日組も国内組も穴がないのがいい。これはなかなかないことだ。タイトルロールを歌うクラウス・フロリアン・フォークトの人気が高いようだ。まだ若いし、伸び盛りというところかな。聴いていて、この人の声はキャストの中で異質なのに驚く。ドイツ人でワーグナーを歌って、リリックと言ってもいいほどだし、音色が明るい。カウフマンのような重苦しい声かと想像していたが全く対極にある感じだ。私は好みである。

舞台は意外にシンプル、第一幕は三方をスクリーンで囲まれたスペースに体育のマットを重ねたような装置が点在するだけ。その上に乗ってハインリヒ国王が演説したり、ローエングリンとテルラムントが一戦交える。実際に切り結ぶのではなく離れて気を飛ばすようでスターウォーズ風。第二幕は巨大な蚊取り線香がエルザの上に降りてきたりと風変わりなところも。第三幕はわからないが、もっと賑やかになったに違いない。いろんな趣向を凝らしているようだ。ひと幕の長さを感じさせない演出だけど…

新国立劇場のピットではあまり感心しない東京フィルも締まった演奏である。指揮者ペーター・シュナイダーにしてみれば自家薬籠中のレパートリーだろうから、このオーケストラをその気にさせることぐらいは容易なのだろう。そう言えばこの人、大植英次氏がバイロイトの「トリスタンとイゾルデ」を一年限りで降板した後を引き継いだ人である。そういう安心感があるということなんだろう。

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