大植英次/大阪フィルのマーラー第9交響曲 ~ 落としものを探しに
2012/7/12

この前、会場のシンフォニーホールで扇子を落としたので、窓口に尋ねてみたが見つからなかったようだ。今ごろ誰かが扇いでいるのだろう。節電の夏だし、きっと活躍しているに違いない。この日のプログラムも落としもの探しのようなもの。大植さんが体調不良で演奏自体も停滞感のあった頃、定期演奏会に予定されていてキャンセルされた因縁の演目だ。

マーラー:交響曲第9番ニ長調
 管弦楽:大阪フィルハーモニー交響楽団
 指揮:大植英次

桂冠指揮者となって初の定期演奏会への登場。と言っても西宮でのマーラー第3交響曲が最近あったから、音楽監督辞任後も大阪フィルとの関係は緊密のようだ。そしてこの日の第9、第2楽章以降が素晴らしい出来で、マーラーの面白さを堪能した。

かつて定期演奏会で取り上げた第5と同様、かなり遅いテンポで各楽章が進む。もっとも、第5のときは病的なほどの晦渋さがあったのに比べると、今回の第9はすっきりと明るいと言ってもいいほどだ。第2楽章のスケルツォに相当する音楽の各楽想の描きわけは見事だし、それぞれ一点一画をゆるがせにしない感じで糞真面目にやるので諧謔味が際だつ。ゆったりとした流れの音づくりの中に第1楽章の主題が回帰する部分もピタリと収まる。

同様のことは第3楽章のロンドにも言える。作曲者が力点を置いたのはたぶん両端楽章だし、演奏者にしてもそういうアプローチをとるのだろうが、この大植/大阪フィルの演奏では中間楽章が非凡だと思う。逆に言うと、出だしはごく普通の演奏という印象だ。第1楽章の揺蕩うような音楽の流れは、それがずっと保持されるのではなく、ときに無粋なフレージングや音量バランスによって水を差されるところが残念だった。第4楽章のほうは繋ぎの休止の美しさを感じるほどの集中がみられてとても好ましい。各セクションのバランスも適切だ。この日の演奏ではヴァイオリンは対向型の配置、確かに第2ヴァイオリンが前面に出る部分も多いので正解かも知れない。聴き終えて思うに、この作品、キャンセルとなった定期演奏会でやるよりも、数年を経て関係の熟したところで取り上げるに相応しい曲だったかも。

会場でもらったチラシの束に「大阪クラシック」のプログラム暫定版が入っていた。大植さんが辞任してどうなるのかなと思っていたら、今年も開催されるようだ。シンフォニーホールでの有料プログラムの入場料が1500円、2000円というのはどうなのかなあ。定期演奏会が1500円(60歳以上なら1000円)で聴けるのに、その2/3ぐらいのボリュームで同等以上だから、大阪の客がどれだけ入るのか心配なところもある。大阪フィルの財政状態が厳しくなっていることの証左だろう。去年の同イベントでは平松前市長の選挙を意識したパフォーマンスなどもあって鼻白んだことを思い出す。まさかその意趣返しの補助金削減ではないだろうが、音楽関係者があまり政治に近づきすぎると碌なことはない。

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