SKF「火刑台上のジャンヌ・ダルク」 ~ 行きがけの駄賃に
2012/8/19

お盆明けの山登りが先に決まって、よく考えてみればサイトウキネンの舞台初日も観られる日程、それならと直前に最安席をゲットした。昨年は焼岳に登るつもりが悪天候で高瀬渓谷の散策に終わったので、そのリベンジでもある。オペラでなくオラトリオ、「火刑台上のジャンヌ・ダルク」だったら1時間そこらの作品だし、ヘンな話だが時間単価とすれば割高感が否めないけどまあいいか。

名古屋から格安のレンタカーで木曽路を走る。恵那山トンネルを中央道で抜けるのが普通だが、もったいないのと面白みに欠ける。妻籠宿、馬篭宿は以前訪れたことがあるので、今回は奈良井宿に立ち寄る。19号線もカーブが直線化されたりして随分走りやすくなっている。

ジャンヌ・ダルク:イザベル・カラヤン
 修道士ドミニク:エリック・ジェノヴェーズ
 語り:クリスチャン・ゴノン
 ソプラノ独唱:シモーネ・オズボーン
 ソプラノ独唱:藤谷佳奈枝
 アルト独唱:ジュリー・ブリアンヌ
 テノール独唱:トーマス・ブロンデル
 バス独唱:ニコラ・テステ
 合唱:SKF松本合唱団、栗友会合唱団、SKF松本児童合唱団
 演奏:サイトウ・キネン・オーケストラ
 指揮:山田和樹
 演出:コム・ドゥ・ベルシーズ
 アーティスティック・アドヴァイザー:ブロンシュ・ダルクール
 装置:シゴレーヌ・ドゥ・シャシィ/森安淳
 衣装:コロンヌ・ロリオ-プレヴォ

昨年の初日に「青ひげ公の城」を振ったのが小澤征爾氏の今のところ最後のオペラ、病気回復は順調のようだが、まだピットに立つまでの健康状態ではないのだろう。早くから山田和樹氏の名前がクレジットされた公演である。

「火刑台上のジャンヌ・ダルク」、2年前、沼尻竜典氏が日本センチュリー交響楽団の定期演奏会でセミステージ形式で取り上げたのを聴いたきりの曲だ。昨年はこの沼尻氏がサイトウキネンで「中国の不思議な役人」を小澤征爾とのダブルビルで振った。沼尻氏の再登場という目もありそうな気もしたが、最近人気の若手に白羽の矢が立ったということか。小澤氏で客を呼んでいるだけに、いざというときの人選も難しいところがあるのだろう。プログラムのせいもあると思うが、例年に比べると心なしか賑わいに欠ける。

そんな楽屋裏の事情は知る由もないが、演奏自体はなかなか楽しめた。やはりセミステージで観るよりは本格舞台上演のほうが視覚的にも面白い。舞台後方には三層にコーラスが陣取り、オーケストラピットを囲むようにロの字型の舞台がしつらえてある。見ようによってはオーケストラが主役とも取れる。

オーケストラの奏者は腕利き揃いなんだろう。大阪で聴いた演奏とはことオーケストラに関する限り、同じ作品とは思えないほど。メリハリ、膨らみのある音がするのは山田氏の力量なのかオーケストラ自体のものなのか判然としないけど、立派な音が紡ぎ出される。

一方のソリストのほうはと言えば、これはなかなか論評が難しい。歌わない主役のジャンヌを演じたのはイザベル・カラヤン、つまりあのカラヤンの娘、なんだか話題優先、客寄せパンダ風のキャストだなあと思っていた。母親がフランス人だからフランス語はお手の物というのはわかるにしても悪声だ。顔つき自体が母親というよりも父親に生き写し、そういえば20世紀の巨匠も映像や録音で知る限りひどいだみ声だったことを思い出す。悪声であるから俳優が務まらないということはないにしても、ジャンヌという役柄に相応しいのかどうか。

来日キャストが多くを占める登場人物たち、大阪で聴いた高橋淳氏のような強烈な個性という人はおらず、印象は平均的なものにとどまる。やはり今回の公演の主役はオーケストラか。演出などのスタッフはフランス組だ。オラトリオの舞台上演というのは退屈してしまいかねないものだから、人物の動かし方や衣装、証明など、視覚的に飽きさせない工夫が見られたように思う。

サイトウキネンで取り上げる舞台作品はニッチの世界で、この路線は今後も継続するのだろうか。それだからこそ松本まで足を伸ばすという向きもあるだろうが、ポスト小澤ということがそろそろ現実の問題にもなりかけている現在、来年はどうなるのだろう。

16時開演、長々とカーテンコールがあってもまだ明るい時間、松本駅近くのカフェバーで美味しい料理と冷たいビールで余韻を楽しむ時間は充分にある。カラヤン嬢も小澤氏もこの店を訪れたらしい。氏は好物の蕎麦ばっかりかと思ったら、フレンチを元気に食べていたということだから、一安心というところか。氏の再登場が待たれる。

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