山田和樹/大阪フィル定期 ~ 三度目の正直
2012/9/13

先月、松本でこの指揮者を聴いた。いま売出し中、どころか、すっかり話題の中心となった感のある山田和樹氏、もう新進気鋭という言葉がちょっと当てはまらなくなっている。私は、正月にオーケストラアンサンブル金沢で聴いたのが初めなので、これが三度目、悪くはないが、そんなに感心したという印象は持っていなかったのだが、今回は違う。これはとってもいい。

藤倉大:オーケストラのための"tocar y luchar"
 グリエール:ホルン協奏曲 作品91
 ベルリオーズ:幻想交響曲 作品14
 ホルン:シュテファン・ドール
 指揮:山田和樹

藤倉大氏の作品、スペイン語のタイトルが付いているのは「奏でよ、そして闘え」という意味だそうな。例のベネズエラのオーケストラを率いるドゥダメルと、エル・システマの創始者アントニオ・アブレウ博士に献呈されたとのこと。孤児など社会的弱者救済の意味合いもある取組は、なんだか現代のヴィヴァルディという気もする。歴史は同じことが繰り返される。
 大オーケストラの響きは斬新なところもある反面、数多の新作と同様に書かれたまま忘れられてしまう運命のような気もするが、どうなるか、それは私には判らない。

次に演奏されたホルン協奏曲、そんなに古い作品じゃないのに藤倉作品の後では時代錯誤かと思うほどにロマンティックな曲調だ。これでいいのかなという気もするけど、ホルンを聴かせる曲なんだからそんなものか。シュテファン・ドールはベルリンフィルの首席、そりゃあ上手いはず、今どきのプロオーケストラなら音がひっくり返ることは珍しくなったが、この人のレベルはちと違う。ほんとうに唖然とするような弱音が出せる。ホルンでこんな音が出るのかと吃驚仰天である。

さて、ホルンの妙技もさることながら、メインプログラムの幻想交響曲が素晴らしかった。山田和樹氏はどちらかと言えばゆったりとした動き、ヘンに見得を切ったりはしない。オーケストラに息の長い旋律を歌わせる一方で、小気味のよい推進力がある。この2つの要素がうまく調和しているのが非凡だ。幻想交響曲は得意の作品ということもあってか、このシンフォニーの面白さを堪能した。聴いていてロッシーニを感じるところがあったのが不思議、時代もスタイルも違った作品なのに。彼にロッシーニのオペラを振らせたらとてもいいんじゃないかな。

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