新国立劇場「愛の妙薬」 ~ 再びの関西公演
2012/10/25

仕事が休みの木曜日、昨年に続いて出かけることにした。あの列車事故と分かち難く結びついた地名が、最近ではまた異様な事件で新聞に出ない日がない状況だ。気の毒な尼崎。ここは近松門左衛門が多くの仕事をしたところだし、本日の会場のアルカイックホールは大津や西宮のホールができる遙か以前から、オペラを上演し続けていた場所だ。ただ、そんな文化面の姿を知る人はごく少数だろう。

アディーナ:光岡暁恵
 ネモリーノ:大槻孝志
 ベルコーレ:成田博之
 ドゥルカマーラ:鹿野由之 
 ジャンネッタ:九嶋香奈枝
 合唱:新国立劇場合唱団 
 管弦楽:大阪フィルハーモニー交響楽団
 指揮:城谷正博
 演出:チェザーレ・リエヴィ

「愛の妙薬」は2012-2013シーズンの新国立劇場のラインアップに並んでいるが、尼崎の公演は高校生のためのオペラ鑑賞教室、本公演ではない。とは言っても、同じ演出、同じ装置で、キャストを国内勢で固めているというところが違うだけ。高校生相手だからといって、特別に解説が入るわけでもないし、ハイライト上演でもない。こちらでは、初台で配られることのない立派なプログラム冊子が付く。

去年来たときに比べると、客席の様子が少し違う。開演前に高校生たちの賑やかなことは変わりないが、去年は音楽が始まったらしんとしたのに、今年はそうはいかない。二階席で聴いたせいもあるが、いつまでもざわついている。付き添いの先生が上演中に注意しても止む気配がない。逆にふてくされて場違いな拍手をしたりするのは問題児が混じっているのだろう。ちょっと出来の悪い学校が来ていたようだ。パンツが見えるようなスカートの女子高生の姿も一人や二人じゃない。近くに座っていた一般入場のおっさんは「サルみたいなのがいる」と吐き捨てていたけど、その連れは当日券に並ぶ列を横目に、窓口に突進して注意されていた人だから、高校生のことをサル呼ばわりする資格はなさそう。

そんなことで、前回ほど気分よく鑑賞できたわけじゃない。二階席後方は空っぽだったのだから、もっと広報して一般客を入れたらと思うのだが、色々と事情があるのだろう。安い料金で新国立劇場のプロダクションを観られるチャンス、こちらでは聴く機会の少ない首都圏の若い歌手を聴くチャンスなのに、蚊帳の外に置かれた関西の歌手や団体に気を遣っているとしか思えない。もったいないことだ。

アディーナを歌う光岡暁恵さんは10年前に昭和音楽大学の「夢遊病の娘」で聴いている。あれから10年、先ごろ同じ役で藤原歌劇団の本公演に登場したのだから、進境著しいものがあるのではと期待した。それはある意味では期待どおりであり、ある意味では期待はずれでもあった。声が練れてきたのははっきり判る。軽いだけの声ではなく芯が通って重くはならずに肉付きがよくなったのは良いところ。反面、あのときに感じた平板さというか一本調子のところが払拭し切れていないのは、その間の年月を考えると不満だ。良くも悪くもなかなか個性というのは変わらない。

ネモリーノの大槻孝志さんの歌は惜しい。レチタティーヴォやアンサンブルのところはとてもいいのに、どうしてアリアの部分になると余計な力が入ってしまうんだろう。逆のパターンの人が多いのに。冒頭のアリア、聴かせどころの第二幕のアリア、力が入ることで音楽の流れが滞ってしまって美感を損ねるのはもったいない。

ベルコーレの成田博之さん、ドゥルカマーラの鹿野由之さん、ジャンネッタの九嶋香奈枝さんは昨年と同様の布陣だ。男声二人はもう少し声の柔軟性があればとも思うのだが、これはこれで可笑しさを際だたせるという効果もある。そして、相変わらず合唱が素晴らしい。これはちょっと関西の公演では望めない水準だ。本公演同様に三沢洋史さんのおかっぱ頭も見える。

来年は「夕鶴」ということらしい。さて、どんなことになるのやら。生徒が「せんせ、英語やとは思わんかった。何ゆうてんのかわからへんかった」と。「そんなん、字幕が付いてたし見たら意味わかるやんか」との珍妙なやりとり。イタリア語ならずとも、日本語にも字幕が要ると思うなあ。

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