小林沙羅ソプラノ・リサイタル ~ 初々しさと課題と
2012/12/5

初めてのリサイタルのようだ。ずいぶん意欲的なプログラム、前半がイギリスの歌曲、後半がドイツ歌曲、そしてオペラのナンバーとなっている。英語、ドイツ語、イタリア語、チェコ語、フランス語と5か国、新進歌手がこれまでの成果をリサイタルで問うということなんだろう。

この人はオペラの舞台で二度観ていて、なかなかチャーミングな人という印象だったし、それでリサイタルも聴きに行こうというのだから、こちらの期待度も大である。大阪のいずみホールと東京の紀尾井ホール、小さからず大きからず、リサイタルにはちょうどいい会場だ。もっとも声楽にはいずみホールよりももう少しデッドな響きのほうが好ましいが。

パーセル(ブリテン編曲):憐みの天使よ、教えてください
 ブリッジ:行かないで幸せな日よ/あなたの恋人に何と伝えましょう/
      愛はペガサスに乗って
 ブリテン:歌曲集「この島で」
 シューベルト:音楽に寄せて/アヴェ・マリア
 R・シュトラウス:薔薇のリボン/明日に
 マーラー:春の朝/思い出/誰がこの歌を作ったのか
 モーツァルト:「フィガロの結婚」より
        「とうとう嬉しい時が来たのね~恋人よ早くここへ」
 ドヴォルジャーク:「ルサルカ」より「月に寄せる歌」
 グノー:「ロメオとジュリエット」より「私は夢に生きたい」
  ソプラノ:小林沙羅
  ピアノ:森島英子

非常に丁寧でいて情感がこもった歌だ。詞の意味をしっかりと捉えた表情付けができている。当たり前のことだけど、もっぱらオペラという人でそれが疎かな人はいくらもいる。配られた歌詞のリーフレットを見ると、ドイツ語歌曲の訳詞は彼女自身によるものだ。始めに言葉ありき、基本をしっかり押さえておくことが、これからのことを考えるととても大切。

彼女のいまの声に相応しいオペラのナンバーを選んだんだろう。三曲の中ではスザンナやジュリエットよりも、ルサルカが一番合っていると思う。この人の課題はパッサージォのところだ。しっとりと充実した中音域から高音に駆け上がる途中の音域、こころなしか声が奥に引っ込んだようになって高音部に続く。ずいぶんトレーニングをしているのだろう、不自然というほどのことはなくて聴き逃してしまうほどだが、さらに改善の余地があるように思う。下から上まで、ムラなく続く音と高音部の輝きと自由さを得たなら、素晴らしい歌手への道が開けるだろう。現状でも素敵ではあるが、それに甘んじてほしくない。まだ発展途上である。

アンコールで歌ったラウレッタとアデーレは共に舞台で歌った役で、私はどちらも聴いている。前者など、軽く歌い流してしまうような曲だが、彼女の歌はとても柄が大きい。歌詞の一つ一つを踏まえた表情の幅はオペラ歌手としての素質を感じさせる。後者にしても同様だ。こちらはコミカルさも加わって多彩である。どちらのアリアも舞台で聴いたときよりも自在さが増しているような感じだ。相手役がいて連係プレーも求められる舞台と、存分に自己表現ができるリサイタルとの違いかな。

先日、還暦を優に過ぎたソプラノの引退公演に近いものを聴いた。いったいどれほどの歳の差があるのか、小林さんの先はまだまだ長い。適切なレパートリーを選んで修練を積んでいってほしいものだ。いいリサイタルだっただけに余計にそう思う。

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