メルクル/大阪フィル定期 ~ ハリウッド超大作
2013/2/28

東京ならワーグナーのプログラムとなるとそれしか行かない客が押しかけるのが常だが、大阪ではそんなことはない。いつものように当日限定の1000円券が発売される。新年度は大植さんのオペラだけ完売、この調子なら格安チケットで凌げそうだ。もっとも次のシーズンは客演指揮者や演目に注目のものが並んでいるだけに安心はできないが…

シューマン:ピアノ協奏曲イ短調作品54
 ワーグナー:楽劇「ニーベルングの指環」抜粋
  ピアノ:イングリット・フリッター
  指揮:準・メルクル
  管弦楽:大阪フィルハーモニー交響楽団

2010年、シューマン生誕200年では、定期演奏会のコンチェルトは判で押したようにこれということがあった。ついこの前のことだから、またシューマンかという気がしてならない。自分自身はちっとも名曲と思っていないので尚更だ。

早めに並んだせいか、ほとんどかぶりつき3列目のA席相当のチケット、しかも舞台下手側なのでピアノのときは先に売れるゾーンだ。こちら、ピアノにあまり興味がないので猫に小判状態かな。でも、ピアニストは間近に観察できる。若くて元気のいい人のようで、フレーズの終わりとかアクションがとても大きい。演奏し終わってのお辞儀、勢いよく90°どころか100°ぐらいまで腰を折り曲げるのは、きっと体が柔軟なのだろう。アクションの反面、出てくる音は激しいわけではなく、優しいと言ってもいい感じ。合わせるメルクルの指揮を見ていると、実に明快、これほど拍をはっきり刻む指揮ぶりというのも珍しいぐらい。ソリストへの配慮もしっかりとしている。ピットに入ったときしか知らないので、舞台の上の姿に感心した。

「指環」抜粋版は、2010年にN響定期で演奏したものと同じということらしい。各ナンバーを区切らず繋いで構成している。①「ラインの黄金」序奏、②神々のニーベルハイム下降の場の音楽、③ワルキューレの騎行、④ヴォータンの告別、⑤ジークフリートと大蛇ファーフナーの戦い~ファーフナーの死、⑥夜明けとジークフリートのラインへの旅、⑦ジークフリートの死と葬送行進曲、⑧ブリュンヒルデの自己犠牲(後半)と終曲という流れで、「森のささやき」など入っていて不思議のない曲が除かれたりしている。50分ほどの一続きの曲としたときに、収まりの悪いものを割愛したということかも。

メルクル/指輪ということになると、否が応でもキース・ウォーナーのトーキョー・リングの舞台が目に浮かぶ。プレミエのシーズン、「ラインの黄金」だけは生の舞台を見逃したが、他の三作はポップな舞台を存分に楽しんだ。ワルキューレの騎行は野戦病院の中をベッドを押して走り回るワルキューレたちが記憶に焼き付いているし、四部作終曲の大掛かりな舞台転換だとかも印象が強い。なかなか再演、通し上演が実現しないのが残念だ。ワーグナーに情熱を注ぐ飯守泰次郎次期音楽監督の下でその日が来ないものだろうか。

それで、大阪フィルとしては普段あまり演奏していないだろうワーグナー、もっと炸裂してもいいかと思ったが、結構抑制の効いた音楽づくりのような感じがした。もっとも、3列目だとオーケストラの音が上空を通過していくようなもので、良い席なら印象も違っていたかも。

全く休止がなく一つにまとまったダイジェスト版として、全体を見通したメルクルのコントロールが行き渡っているというところか、こちらの集中度も上がる。指揮ぶりの明快さとは裏腹にやや乱れ気味の箇所もあった感じだが、きっと二日目のほうが完成度は上がるだろう。

こうして聴いてみると、この曲はハリウッド超大作のサントラという感じがする。そんなことを言うとワグネリアンたちは湯気を立てて怒り出しそうだけど、もし生誕100年だったとしたら、ワーグナーは映画音楽に手を染めていたに違いないと思う。

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