新国立劇場「魔笛」 ~ オールジャパンの今
2013/4/14

ノヴォラツスキー芸術監督以降、新国立劇場では基本的にシングルキャストでの公演となったため、邦人作品を除けば出演歌手が全て日本人というケースはなくなった。それまでなら、ダブルキャストの一方には主役クラスに国内勢が名を連ねるということも珍しくなかった。その意味でも全てが日本人歌手という定番演目は久しぶりである。10年ほどのインターバルを経て、現在の日本人歌手の実力を測るには最適の機会でもある今回の「魔笛」、その初日を聴いた。

ザラストロ:松位浩
 タミーノ:望月哲也
 弁者:大沼徹
 僧侶:大野光彦
 夜の女王:安井陽子
 パミーナ:砂川涼子
 侍女Ⅰ:安藤赴美子
 侍女Ⅱ:加納悦子
 侍女Ⅲ:渡辺敦子
 パパゲーナ:鵜木絵里
 パパゲーノ:萩原潤
 モノスタトス:加茂下稔
 武士Ⅰ:羽山晃生
 武士Ⅱ:長谷川顯
 合唱:新国立劇場合唱団
 管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
 指揮:ラルフ・ヴァイケルト
 演出:ミヒャエル・ハンペ
 美術・衣裳:ヘニング・フォン・ギールケ
 照明:高沢立生

パミーナ役の歌手が国内では一番人材豊富なところだろう。砂川涼子さんは先ごろのヴィオレッタは限界の役柄だが、これはどこから見ても填り役だ。表情の豊かさと潤いのある声、彼女が歌うト短調のアリアの哀切さはお伽噺と判っていても思わず感情移入してしまう。新国立劇場でリューなどの裏キャストとして出演していた頃を思うと一回り二回り表現の幅と深みが出ている。

コロラトゥーラの夜の女王、これも意外にこなせる人が増えている。安井陽子さんがこのプロダクションの前回公演に抜擢されたとき、新星登場と騒がれたものだ。残念ながら私はそのときの公演を聴いていないので楽しみにしていた。確かにきっちりとした立派な歌唱ではあるけど、最初のアリアはややパワー不足を感じた。この役は二つのアリアを歌うだけの役なので、いわゆる繋ぎの部分がない。舞台ではドラマを生かすも殺すもアリア以外のところにあるのだが、レチタティーヴォやアンサンブルも含めた彼女の実力はこの作品では窺うことができない。

大津と横浜のヴィオレッタでは砂川さんと競演となった安藤赴美子さんは侍女役になっている。ここらが微妙な配役と言えるが、たんに歌えるということでは舞台では通用しないし、現状の表現力からすれば順当だろう。もっともこの三人の侍女、さらに三人の童子のアンサンブルは充実しているから、いまの女声陣の裾野の広がりは大変なものだ。

そして松位浩さんのザラストロ、この役の超低音を響かせられるバスは国内では稀有の存在。砂川さんとのデュエットで並ぶと顔の大きさはほとんど倍、容積比だともっとありそう。声を頭蓋骨で響かせるわけではなかろうが、そんな気になるほど。

萩原潤さんのパパゲーノ、鵜木絵里さんのパパゲーナ、声楽的難易度の低い役なのでそれをとやかくは言えないが、こなれた芝居ができる人が増えている。

やはり一番の問題はテノールだ。世界的に人材不足なのは事実としても、日本のこの現状は厳しい。キャストを決めるに際して新国立劇場はきちんとオーディションを行っているのだろうか。オペラ前半は音程がふらつき高音はしくじる、同じパターンの繰り返しには嫌気がさしてしまう。いろいろな役柄で登場機会の多い望月哲也さんだが、彼が出られるというのは逆に全般の水準の低さの証左なのか。

ミヒャエル・ハンペの演出は、先日の「オテロ」の糞演出の後なので一服の清涼剤みたいな感じだ。奇を衒わない美しい舞台、音楽の邪魔をしないのが何よりだ。モーツァルトの第2幕は冗長なので、つい弛緩して眠くもなるところだが、ラルフ・ヴァイケルト指揮の東京フィルは引き締まった演奏だったので助かった。ピットでのやる気の無さが目立つことの多かったこのオーケストラもずいぶん良くなったように思う。

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