関西二期会「夢遊病の女」 ~ 驚異のコストパフォーマンス
2013/5/4

ずいぶん前に一度だけ来たことのある吹田市文化会館、メイシアター。友人が行けなくなって頂戴したチケットで出かける。高いオペラだとタダで貰うのは気が引けるが、これは定価1000円、いくら最安席とは言ってもこの販売価格の公演はまずないだろう。そして、これが予想を上回る出来映え、芸術体験にコストパフォーマンスを言うこと自体が間違っているが、それでも1000円というのは破格だ。

アミーナ:日紫喜惠美
 エルヴィーノ:ジョヴァンニ・ボッタ
 リーザ:佐竹しのぶ
 テレーザ:嶋田友里恵
 ロドルフォ伯爵:片桐直樹
 合唱: 関西二期会合唱団
 合唱指揮:岩城拓也
 管弦楽:大阪交響楽団
 指揮:ダニエーレ・アジマン
 演出:カルロ・アントニオ・デ・ルチア
 舞台美術・衣裳:アレッサンドラ・ポメリーノ
 照明:西川佳孝

題名役の日紫喜惠美さんはちょっと声が太くなった。もうキャリアが長いから声の傷みが心配だったが、それは感じられず、アミーナとしては重めかも知れないが、重さと軽さの適度なバランスが保てていたのではないかな。この人、ちょっと歌い方の癖があるので、そこがどうかなという感じはあるが、気にするほどでもない。つまり、テンポが緩み気味であるところに、出がわずかに遅れ気味なので音楽が停滞感を帯びる。今回、この役をしっかり準備したところが窺える完成度があったと思うだけに、前述のモヤモヤ感に繋がる部分が惜しいところである。

オーケストラは丁寧で好感の持てる演奏、指揮者ダニエーレ・アジマンは日紫喜さんの歌いやすいテンポに専心というところ。声を殺してしまう独りよがりな指揮じゃないのがいいものの、前述の緩み気味のところが出るので痛し痒しか。

そして、テノール、ジョヴァンニ・ボッタ、人に言われて後から思い出したのだ10年ほど前の新国立劇場での「セヴィリアの理髪師」でアルマヴィーヴァにクレジットされていた人だ。あのときは降板してダブルキャストだったアントニーノ・シラグーサが全公演を歌った。そこで聴き逃した人がこんなところで聴けることに。この人はペーザロにも出ている人で、この気持ちの良い高音をわずか1000円で聴けたというのは信じられない思い。軽く明るく張りのある声で高音の不安もない。日紫喜さんの好演ともども彼が加わったことでオペラがぐっと締まる。

リーザの佐竹しのぶさんもよかったし、これは何とも嬉しい誤算となった関西二期会の公演だった。まあ、演出はわざわざ海外から招くほどのこともないというありきたりのものだったが、余計なことをしないだけ良しとするか。新国立劇場で聴き慣れているとコーラスはかなり見劣りするが、あちらのレベルがそれだけ上がったということだろう。

開演前、配られたチラシを見ていたら、このメイシアターで来月30日に藤田卓也さんが歌う「仮面舞踏会」があるというので、階下の事務所に引き返したった1枚残っていた最安席をゲット。関西歌劇団の公演に客演するらしい。「ファヴォリータ」で度肝を抜かれた人だから今日のボッタの替わりが務まるはずだが、リッカルド(グスターヴォⅢ)も悪くないだろう。堀内康雄さんの「シモン・ボッカネグラ」と2週連続で6月にはヴェルディイヤーらしい楽しみがある。

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