大阪フィル定期「子供と魔法」 ~ これは思いのほか
2013/7/24

いつもの定期演奏会の料金より少し高い価格設定、海外から多くの歌手を呼んでいるという事情があるのだろう。シンフォニーホールに着いたら、ちょうど当日売りのシニア・学生券の列が進み出したところだ。入場すると一階両翼や後方の空席が目に付いたから、これならチケット代を節約できたのにとは後の祭。わずか1000円の席のほうが、舞台横の3階バルコニー席よりも声楽には良いポジションだし、ちょっと残念。大植さんのときには大概満席だけど、さすがにオペラだと客足が鈍るのは大阪らしいところ。

ブラームス(シェーンベルク編曲):ピアノ四重奏曲第1番ト短調作品25
 ラヴェル:歌劇「子供と魔法」(演奏会形式)
  子供:ステラ・ドゥフェクシス
  ママ、中国の茶碗、トンボ:インゲボルグ・ダンツ
  羊飼いの少女、お姫様、コウモリ、フクロウ:天羽明惠
  火、うぐいす:レイチェル・ギルモア
  安楽椅子、雌猫、リス、羊飼いの少年:アネリー・ゾフィ・ミューラー
  大時計、雄猫:セバスティアン・ノアーク
  ティーポット、小さな老人、雨蛙:ドミニク・ヴォルティッヒ
  ソファー、木:ルドルフ・ローゼン
  合唱:ザ・カレッジオペラハウス合唱団、大阪すみよし少年少女合唱団
  指揮:大植英次
  管弦楽:大阪フィルハーモニー交響楽団

今回の定期演奏会、演目には興味を覚えたものの、この組み合わせが正解なんだろうかとの疑問も残る。2時間のプログラムを構成するために、オペラに組み合わせる作品としてブラームスを選ぶという奇妙さ。彼の人は最もオペラから遠い作曲家だし。

定期演奏会でなければ取り上げることのない2作品、普段やり慣れていないだけに両方とも万全といかないだろうと想像したとおり、前半のブラームスのピアノ四重奏オーケストラ版は、サウンドが練れていないのが耳についた。こういうふうに並べると、どちらかに重点が置かれてしまう。当然に声楽が入る後者に偏ったリハーサルの時間配分になったことが想像に難くない。どっちつかずより遙かによい、後半のオペラが楽しめたのでよかったと言える。

オペラでは、大植さんは珍しく大きなスコアを前に置いての指揮ぶり、私のバルコニー席からだと、舞台の前端、オーケストラの前に立つ歌手の背中を見ることになり、声を聴くには最悪に近い。ところがその反面、歌手の裏側のオーケストラの雄弁さや、諧謔味がよくわかる。ラヴェルのオーケストレーションはほんとに凄い。入れ替わり立ち替わり登場する無生物も含むキャラクター、そのテキストとサウンドの絶妙の絡みがまさに天才的だ。センスのある舞台が伴えば言うことなしだが、演奏会形式でも充分に楽しめる。ロラン・ペリーの演出がどんなものか知らないが、また来月に松本に行ってもいいかも、という気にさせる。あちらはラヴェル2本立てだし。

歌手陣はしっかりしたものだ。後ろ側になるので細かな論評は難しいが、短いフレーズの交錯、一人何役もの歌い分け、この作品は歌い手の声を聴かせるオペラじゃないから、舞台袖バルコニーでも面白さが味わえた。後半プログラムだけでも値打ちがある。

前半のブラームス、シェークベルクの編曲によるピアノ四重奏、奇妙な作品だ。四楽章のがっちっりとした構成だから、オーケストラ版を作りたくなるのはよく判る。しかし、とてもブラームスとは思えないオーケストレーション、後半の二つの楽章にそれが顕著、前半と後半が水と油のようになっている。聴きながらこの作品をオーケストレーションの天才ラヴェルが手がけたら、どんな具合になったろうと想像する。まさか、そういうことを考えさせるための選曲ではないと思うが…

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