ワーグナープロジェクト名古屋「パルジファル」 ~ アマチュア恐るべし
2013/8/25

最近は毎年のように出かけていた松本のオペラはパスにして、信州への道半ば、名古屋に行く。例年だとナゴヤドームに何度か足を運んでいるはずなのに、ドラゴンズの体たらく、無能を絵に描いたような監督のシーズン中の解任は期待すべくもなく、これで借金日本一の"怪"挙で留任なんてことになったら悪夢でしかない。

野球の延長12回よりもずっと長い「パルジファル」全3幕、これをコンサートオペラでやるというのだから、辛気くささに耐えられるだろうかと些か心配、とにかく前日はしっかり寝ておかなければ。そして近鉄特急で向かう。先ずは長丁場に備えて腹ごしらえ、今年は高値で食卓に上ることもなくなった鰻を奮発、松坂屋の階上、あつた蓬莱軒のひつまぶし。これで大丈夫。

頭がクラクラする夏の名古屋だけど、この日は雨、エレベーターから見おろす久屋大通の広場では舞台がしつらえられていて何やらイベント。Domatsuriというロゴが。どまつり…、どけち、どあほの類かと思えば、にっぽんど真ん中祭り(通称:どまつり)ということらしい。たくさんのチームが群舞を競うというもののよう。地下鉄に派手な衣装の若者たちが乗り込んできたのは、この出場チームだったんだ。ずぶ濡れでこりゃ大変、でも若者は元気だ。

さて、愛知県芸術劇場コンサートホール、全席自由席ということで開場前から待ち構えていたのだろう。大勢の人たちが階上に急いでいる。1階2階の良さそうな席は既に塞がっていて、3階の最前列に何とか席を確保、3000円という料金のせいか客の入りはすこぶる良い。私はさらにその半額で入手したチケットだけど。

バイロイト風にプロセニアムにブラスが並び、オペラの一節で開演前のノーティス。いよいよ我慢のときが始まる。指揮を務める三澤さんがプログラムに書いている。「このコンサートホールに足を踏み入れた以上、もうあきらめてほしい(笑)。6時くらいには終わるだろうと思ってはいけない。終演は9時近くになると思う。でも、お願いだから1幕や2幕で帰らないでほしい。我慢してでも、途中で寝てしまってもいいから、なんとか終幕まで聴き通し欲しい。」

パルジファル:片寄純也
 アンフォルタス:初鹿野剛
 グルネマンツ:長谷川顕
 クンドリ:清水華澄
 クリングゾル/ティトレル:大森いちえい
 合唱:モーツァルト200合唱団
 管弦楽:ワーグナープロジェクト名古屋管弦楽団
 指揮:三澤洋史

三澤さんの願いむなしく、満員の客席は各30分の休憩の都度空席が増えていく。義理で来場したオーケストラやコーラスの友人・知人といった人たちなのかも。初めて体験するオペラが「パルジファル」、しかも演奏会形式なのだから耐えられないのを責めることも出来なかろう。かく言う私も長谷川さんには悪いが第1幕のグルネマンツの延々たる語りでは船を漕いでしまった。いきなりこれだもの、もうオペラはこりごりという人が何人も生まれただろう。

それで、演奏が詰まらなかったかと言うと、決してそんなことはない。歌い手の水準は高い。グルネマンツの長谷川顕さんに深々としたバスを望むのは無理だし、他にそう人材がいるわけでもない。10年以上前に竹田昌弘さんのパルジファルを聴いたのが私の唯一の舞台鑑賞なのだが、今回の片寄純也さんもいい。終幕では息切れ感も見受けられたが、明るさと強さのある声、この脳天気な若者役に嵌っている。アンフォルタスの初鹿野剛さん、二役の大森いちえいさんも好演だ。

何よりもクンドリの清水華澄さんが出色、芯のあるメゾソプラノ、この不思議なキャラクターの多様さの表現は長丁場でも飽きさせない。今回の公演の柱だったと言ってもいい。

「パルジファル」が日本で上演されるのは公演プログラムによれば今回が10度目らしい。私が観た2000年の尼崎での公演が4度目になる。「パルジファル」完全全曲アマチュア世界初演、その文言がプログラムに踊っている。そう、これはアマチュアのオーケストラなのだ。確かに壮挙といっていい。しかも、何とかやりましたというレベルではない。長い期間の練習を経て生誕記念の年にぶつける。首都で複数のプロオーケストラが「ワルキューレ」第1幕というなか、この名古屋の志の高さには敬服する。曲が進むにつれてホルンはよく外すし、他のメンバーのスタミナ切れも感じないではなかったが、いや、ここまで出来るのかとワーグナーの音がする。ある意味、アマチュアだからこそ取り組めることかも。脱帽。

三澤さんが直接指導したのかどうか知らないが、コーラスも健闘である。何しろ新国立劇場のコーラスを世界のトップレベルに引き上げた人、影響を与えないはずはなかろう。この人がオーケストラを指揮するのを見るのは初めてだけど、声とのバランスが絶妙だ。舞台上のオーケストラと奥の小さな舞台、下手をすると声を掻き消すところだが、爆発的な総奏がある一方で、人物の声はちゃんと聞こえてくる。

会場の掲示では第1幕120分となっていたが、実際は90分程度の快速の演奏だった。後の二つの幕も遅い演奏ではなかったから、3時30分開演で、都合1時間の休憩を挟み終演は8時45分ぐらいだった。大阪方面への最終の近鉄特急、21:30発には余裕で間に合う。日中の雨もすっかりあがっていた。

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