VOC「ロデリンダ」 ~ 終わりのはじまり
2013/9/15

10年にわたるプロジェクトが節目を迎える。私自身、この2年間ご無沙汰してしまったが、2004年から始まったヘンデルの日本初演シリーズ、初めから7作を観た。

2004年『フラーヴィオ』
 2005年『アルチーナ』
 2006年『デイダミア』
 2007年『イメネーオ』
 2008年『トロメーオ』
 2009年『オルランド』
 2010年『ロターリオ』
 2012年『ラダミスト』(欠席)

そして、今回の「ロデリンダ」をもって、VOC(Vivava Opera company)の活動はいったん休止となる。主宰の大森さんがプログラムに書いている。「VOCでは、主として経済的な理由で指揮や演出を他の人にお願いすることが叶わず、ヘンデル作品から全ての公演で指揮・舞台構成を私自身が行ってきました。そのことは、オペラ公演全体を充実したものにする手段としては最善ではなかったと、制作者として思っています。ただ、私自身は、行ってきた活動の中で、大変充実した楽しい時間を過ごしました」

私のような第三者が多言を用いるまでもなく、ここにこのプロジェクトの成果と限界が正直に表明されていると思う。大森さんに率直に助言しただろう方の名前も思い浮かぶ。私自身、知人にこのシリーズの良さを吹聴したこともあったし、大阪市内の某ホール関係者にもサポートの可能性がないか当たってみたこともある。商業的な旨みはなく、芸術への情熱だけでは如何ともしがたいところがあったのだろう。そんな取組に対して、唯一ずっと協賛に名前を出している大日本除虫菊株式会社(KINCHO)は立派だ。今更の感はあるが、今回の公演に当たっての寄付の呼びかけに些少のお付き合いをしたところ、ど真ん中の指定席のチケットが送られてきた。その前列、たぶん評論家などの招待用に確保したと思われる数席がきれいに空いていたのは淋しい。

ロデリンダ:老田裕子
 ベルダリード:福島紀子
 グリモアルド:清原邦仁
 エドゥイージェ:山田愛子
 ウヌルフォ:村松稔之
 ガリバルド:的場正剛
 管弦楽:バロック・アンサンブル・VOC
 指揮・演出:大森地塩

「ロデリンダ」、ヘンデルの成功作ということだが、いつものように第1幕は退屈してしまう。登場人物が一人ずつ順番に歌っては引っ込むお馴染みのパターン、それぞれの状況を明らかにする一方でドラマが進むわけでもなく…まあ、これもお約束なので仕方ない。こういうスタイルのオペラに客を引き込むには、個々の歌手の力量がよほどのものであるか、演出の冴えに目を見張るといったことが必要になるのだが…

この第1幕を乗り越えれば、第2幕、第3幕は動きが出てくるから心配はいらない。音楽はよく出来ているほうだと思うので、役柄による色合いの違いをもっと出した歌唱も期待したかったが、それほど顕著なコントラストは見られないのがやや残念。

このシリーズ、歌い手のレベルは一定水準を確保しているのが良いところで、その中に図抜けた歌唱の人がいて公演の成功に導いていたのが通例だ。これまでに登場した人ではアルチーナを歌った津山和代さん、デイダミアの谷村由美子さんなどに指を折る。

今回で言えば、ロデリンダの老田裕子さん、ベルダリードの福島紀子さんは安定した歌を聴かせて公演を支えたことは間違いないが、発見はウヌルフォの村松稔之さんだ。はじめ、メゾソプラノにしては男っぽい声だなあと思ったら、カウンターテナー、どことなく容姿も中性的だ。しかし、カウンターテナーにありがちな(現代人の感覚からすると)気持ちの悪い声ではなく、生理的に違和感を感じることはない。まだ東京藝大修士課程に在学中の人らしく将来が楽しみだ。カストラートのレパートリーをこなせる貴重な人材になるのではないだろうか。

10年間、これだけの水準のものを続けてきた関係者に敬意を表したい。スタートの頃、まだバロックオペラの国内団体による上演などは珍しい時代だった。VOCのヘンデルのオペラ上演が全て本邦初演だったことがその証左である。

VOCが「アルチーナ」を取り上げた年、ミュンヘンのオペラの来日公演に「アリオダンテ」がラインアップされていたように、この10年はメジャーなオペラハウスにもバロックオペラの演目が定着し出した時期と重なる。
 昨シーズンのMETライブビューイングで観た「ジューリオ・チェーザレ」なんて、ここまで面白く出来るのかと舌を巻くほどだった。演出、歌唱、オーケストラ、この時代の作品のルネッサンスといってもいい状況が現出している。

その流れの中で堅実に取り組んできたVOCの公演が相対的に色褪せるのは避けられないことだった。奇しくも、今回の「ロデリンダ」にはその息子であるフラーヴィオが黙り役として登場する。意図してのものなのか、たまたまの巡り合わせか、大森さんには確認していないがVOCの原点回帰の含意のようにも感じる。今後の活動がどのようになるのか不透明だが、日本オペラ史に刻まれたヘンデル初演シリーズの意義を改めて評価したい。

ジャンルのトップメニューに戻る
inserted by FC2 system