みつなかオペラ「カプレーティとモンテッキ」 ~ またも発見
2013/9/29

このオペラ、前に観たのは2002年の藤原歌劇団の公演だった。マリエッラ・デヴィーアとソニア・ガナッシのコンビ、そのときのガナッシの魅力的だったこと、今でも思い出す。それと同じことが、川西で再現するとは…。高谷みのり、素晴らしいロメーオ、直前にネット掲示板で値下げ譲渡の書き込みを発見したのが偶然、そんなときに大当たりが出るものかも。

ジュリエッタ:坂口裕子
 ロメーオ:高谷みのり
 テバルド:中川正崇
 カッペリオ:片桐直樹
 ロレンツォ:鈴木健司
 合唱:みつなかオペラ合唱団
 合唱指揮:岩城拓也
 管弦楽:ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団
 指揮:牧村邦彦
 演出:井原広樹
 装置:アントニオ・マストロマッテイ

"川西市民オペラ"改め"みつなかオペラ"、先のドニゼッティのシリーズは「マリア・ストゥアルダ」、「ファヴォリータ」、「ルチア」、今年から3回のベッリーニのシリーズが始まる。私が観たドニゼッティの前二者はその年のベストと言ってもいい公演だった。藤田卓也という逸材を知ったのもここでだ。今回はさらに一つの名前が加わった。牧村邦彦音楽監督の慧眼と言うべきか。

高谷さんは2006年から5年間、英国にいたらしい。道理で名前を聞いたこともなかったはず。この人の素晴らしいのは各声域の安定感と声の美しさだ。低声部の深みと暖かさ、自然に移行する高音の輝かしさも兼ね備えていて、何と言ってもとても魅力的な声。立ち姿、身のこなしもすっきりと、宝塚の男役を彷彿とさせる。こういうズボン役が絵になる。渡英前にもいくつかの舞台を踏んでいるようだが、それは聴いていない。5年の秋を経て飛躍があったのだろうか。こういうタイプのメゾソプラノは数少ないだけに、貴重な存在、これから楽しみな人だ。

ジュリエッタの坂口裕子さんは昨年の「ルチア」でタイトルロールを張った人らしい。なるほど、充分にこなせそう。コロラトゥーラをよくするソプラノにありがちな細い声ではない。ジュリエッタの存在感がある。上出来。アリアは言うに及ばず、高谷さんとのデュエットも聴かせる。ただ、高谷さんの場合と違い、この分野は人材豊富なだけに、キャリアを積み重ねるのはなかなか大変かも知れない。

悲劇のカップルを囲む脇役がしっかりしているのも公演の印象度を高める。テバルドの中川正崇さんはまだ若い人、響きが薄くなる音域があるのが気になったが、発展途上というところだろう。いいものを持っていると思うのでこれからに期待かな。カッペリオの片桐直樹さん、ロレンツォの鈴木健司さんの二人の低声部ががっちりしているのは安心感がある。意外にこういうことは少ないのだ。

コーラスは頑張っている。このオペラ、男声ばかりで女声は最後に少し出番があるだけだ。二人の死の直前になって初めて女声コーラスが登場する。作曲家はその効果を計算に入れていたのだろうか。衣装も立派だ。

舞台上には大きな二枚の壁があり、これが回転して場面転換が行われる。シンプルだけど上手く動きが整理されていて見易い舞台だ。ピットは最前列の座席を3列分取り外して設けられているが、オーケストラの人数は多くない。スコアどおりの編成に出来ず苦労があると牧村氏はプログラムに書いている。何しろオーケストラピット使用時は423席というキャパシティのホールだ。聴くほうにとっては贅沢なこと。歌い手にとっても無理な力を入れることもない。目一杯の全力投球でないほうがボールのキレがよくなるのと同じ理屈、声にやさしい会場である。

この9月、堺と川西でグノーとベッリーニの同じ物語を題材にしたオペラを観たことになる。この聴き比べという意味でも面白い。前者は二人の出会いから始まるのに対して、後者は既に恋人同士となったあとの両家の対立がドラマの軸となる。フランスオペラらしい華やかな場面が設けられているのに対して、じっくりと声を聴かせるベルカントオペラ。私はベッリーニの高貴と言ってもいいメロディラインの素晴らしさにより惹かれるものがあるが、まあそれは好みの問題ということでもある。来年は「清教徒」が予定されている。アルトゥーロ役にはあの人の名前しか思い浮かばないのだが…

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