いずみホールの「イドメネオ」 ~ ベストキャストはミスキャスト
2013/12/14

各地で第9たけなわとなるとソリストも大忙しのはずなのに、これだけのメンバーのスケジュールが揃って空いていたというのは、奇跡的という表現も大袈裟ではない。「イドメネオ」、このモーツァルトのオペラ、私は演奏会形式でしか聴いたことがない。

公演のチラシ

モーツァルト:「イドメネオ」K366
 イドメネオ:福井敬
 イダマンテ:林美智子
 イリア:幸田浩子
 エレットラ:並河寿美
 アルバーチェ:中井亮一
 大祭司:小餅谷哲男
 海神の声:片桐直樹
 関西二期会合唱団
 ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団
 指揮:大勝秀也

日本を代表する名歌手たちの競演、紅白歌合戦、じゃなかったニューイヤーオペラコンサートの出場メンバーが名を連ねている。それでも敢えて言う、タイトルロールはミスキャストである。10年前は素晴らしい歌い手だったのに、この人の歌の質はどんどん低下してきている。これがスポーツなら結果は誤魔化せないが、パフォーミングアートになると、何となく通用してしまうのが怖ろしい。どころか、第2幕のアリアのあとでは本日初めて、途中でのやんやの喝采である。どうも私の審美眼が狂っているのかなあ。拍手ひとつする気になれないグロテスクなコロラトゥーラ、千変万化(?)の音色、力んで大声を出す反動でスカスカの部分の多いこと、スタイルもへったくれもない歌唱には鼻白むばかり、これが第一人者として通用するとは暗然たるものがある。キャストが発表されたときに危惧したとおりの結果。ドイツもの、イタリアもの、フランスもの、それぞれに歌い分けられる大変な才能を感じたあの頃、あれは嘘だったんだろうか。

対照的に好感を持ったのがアルバーチェの中井亮一さん、この人の歌はちゃんとモーツァルトになっているし、端正だ。配役であまり注目しなかった人なのに、一番の収穫だった。女声3人は予想どおりの歌唱。イリアの幸田浩子さんは良くも悪くもデビューの頃から変わらない。きれいにそつなく歌うけれど、あたり役の人形オランピアから脱皮しきれないもどかしさがある。感情、情感、二文字を入れ替えてできるそれぞれの言葉が表す深いものを伝えきれない歌、いつか心を揺さぶる歌を聴きたい。

イダマンテの林美智子さんは融通無碍のところがある。共演を重ねている幸田さんとのデュエットは息があっているし、福井さんとのデュエットでははそれなりに相手に順応する器用さがある。声も姿も表情が豊かだし得な人だ。

並河寿美さんの第1幕での歌唱は林・幸田コンビを圧するものがあった。存在感では随一だ。ノーカット上演と聞いていたが終幕のソロにはカットがあったんだろうか、あまりに短く感じられたけど、何度も聴いているオペラじゃないので確かなことはわからない。

このモーツァルトのオペラ、今回の上演のように正味3時間かけて演奏すると冗長感が否めない。ましてや演奏会形式、オーケストラだけの部分の音楽のつまらなさ、ダカーポアリアの繰り返し、いたずらに台詞が多いくせにドラマには停滞感がつきまとう。それでもオーケストラがピリッとしていたら締まるところだが、他の在阪オーケストラで見る顔がエキストラとして混じった構成では期待すべくもない。弦と金管楽器のどうしようもないアンバランスさは序曲から耳についた。

リハーサルの日数が充分に確保できなかったという事情もあると思う。大阪での公演にこういうメンバーを集めたら予想できる事態だ。いずみホールのこの企画には敬意を表するにしても、顔ぶれを揃えるだけでは即結果に結びつかないという難しさを窺わせる。音楽の世界、どんどん東京一極集中が進む。これでオリンピックもあるから一層拍車がかかるだろう。日本の音楽シーン、東京だけを見ていればいいということになっても詰まらないのだが…

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