下野竜也/大阪交響楽団定期演奏会 ~ 仰天、ニューイヤーコンサート
2014/1/24

「捻ったウィーンプログラム」という副題がついた定期演奏会である。うーん、これは捻りすぎ、思いっきり捻って、ブチぎれてしまったような感じさえする。ほとんどヤケクソみたいな構成だけど、むちゃくちゃ面白い。これぞ大阪交響楽団の面目躍如というところ。変態プログラムは何も音楽監督の児玉宏さんに限ったことじゃない。これは指揮台に上る人たち全員に共有されているポリシーなのか。日本でいちばん尖ったプログラム、国内見渡したって、こんなハチャメチャなことをやっているオーケストラはない。考えようによっては、とてつもなく凄いことだ。これを許しているスポンサー、大和ハウス工業はまさに太っ腹、ほんと頭が下がる。

公演のチラシ

シェーンベルク:ヴァイオリン協奏曲op36
 スッペ:序曲「ウィーンの朝・昼・晩」
 スッペ:喜歌劇「快盗団」序曲
 スッペ:喜歌劇「美しいガラテア」序曲
 スッペ:喜歌劇「スペードの女王」序曲
  ヴァイオリン:川久保賜紀
  指揮:下野竜也

それにしても今日のプログラム、下野さんぐらいしか思いつかないのではないかな。前後半のギャップの凄さと、これもウィーンという可笑しさ。シュトラウスばっかり2時間も威儀を正して聴いている本場のニューイヤーコンサートなんてテレビ観ていても滑稽だし、このプログラムに比べたら屁のようなものに見える。そんな気さえする2時間だった。

川久保賜紀さんはだいぶ前に聴いたことがあるように思う。この人のヴァイオリンの音色には存在感がある。ボリュームがあり腰の据わった音というのか、ストラディヴァリウスではないと思ったら、やはり、グァダニーニということだった。

シェーンベルクのコンチェルト、永年クラシックを聴いていると、無理に解ろうとしなくてもそれなりの楽しみ方はできる。12音がどうとかの理論はさておき、出鱈目ではない響きと構成はちゃんと受け止められるようになるから不思議なものだ。

やはり、こういう曲になるとソリストも楽譜が必要なのか、横長の譜面台いっぱいに広げていたけど、あまり見ている風でもなかったから、安心のためなのかな。

現代音楽マニアなのかヴァイオリンフェチなのか、休憩時間で帰る人も何人か見かけた。一方でシェーンベルクではほぼ全曲熟睡という感があった人たちが、後半になると体を揺すって上機嫌というのも可笑しくて。いやあ、それも自然体、誰も責められない。

後半の4つの序曲、どれも素晴らしい出来だ。このオーケストラがこれだけ生気に満ちた演奏をするのを聴いたことがない。緩急、強弱の切り替えの見事さ、ソロとトゥッティのバランスの良さ、ここまで引き出す下野さんの力量は大変なものだ。通俗的という烙印を押される曲であるからこそ、それが端正かつメリハリ豊かに演奏されたときの水際だった姿がまるで別人を見るようだ。この人が多くのオーケストラから引っ張りダコであるのは当然だ。いま、日本でいちばん仕事をしている指揮者だろう。

大喝采のあと、指揮台に上がった下野さん、「もう24日ですが、あけましておめでとうございます。今年は午年、それではお聴きいただきましょう」と、定期演奏会では異例のアンコール、曲名は言わずもがな。

ただこの「軽騎兵」序曲は、本プログラムの4曲に比べるとちょっと粗い、まあアンコールだからリラックスムードというのは分かるが、ここは細部までピシッと決めてほしかったように思う。本編の4曲がスッペを馬鹿にしている人でも目から鱗というぐらいの演奏だったのだから。

最高に面白く楽しいコンサートだった。でも、これがスッペだけで2時間のコンサートだったら、流石にもういいやということになりかねない。シェーンベルクの前半とスッペの後半、絶妙のコントラスト、それが必ずしも水と油でもないのが不思議、ウィーンの水脈が繋がっているということだろうか。なんて、私は「第三の男」の下水道のシーンを思い浮かべてしまうのだけど。

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