藤原歌劇団「オリィ伯爵」 ~ ロッシーニは理屈抜き
2014/2/2

ロッシーニ・オペラフェスティバルの来日公演があったとき、新聞紙上に頓珍漢な公演評を書いてファンの失笑を買ったワグネリアン評論家がいた。書かせるほうも見識がないが、そんな人たちから見ると、「オリィ伯爵」はとんでもないオペラということになるだろう。お話は荒唐無稽だし、登場人物は薄っぺらいし、音楽は別作品から思いっきり転用、同じメロディが全く違うシチュエーションでの歌になる。音楽と台本の合一を旨とする価値観からすると許しがたいかも。
 まあ、イタリアの作品ではよくあること、蝶々夫人の凄惨な幕切れに「はは、のんきだねえ」とフルオーケストラが奏でても「日本人を愚弄している」と青筋を立てる人は少ないだろう。音楽とドラマの合一というのもどれほどの金科玉条なんだろう。それにこの作品、洗濯物のリストにさっさとメロディを付けたというロッシーニである。

公演のチラシ

オリィ伯爵:アントニーノ・シラグーザ
 アデル:光岡暁恵
 伯爵の教育係:彭康亮
 イゾリエ:松浦麗
 ランボー:森口賢二
 ラゴンド:吉田郁恵
 アリス:宮本彩音
 騎士:岡坂弘毅
 合唱:藤原歌劇団合唱部
 管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
 指揮:デニス・ヴラセンコ
 演出:松本重孝
 東京文化会館大ホール

第1幕はともかく、休憩後の第2幕は文句なしに楽しめた。第1幕ではシラグーザの高音も取って付けたようで歌の流れに収まっておらず、まだエンジン全開でなかったようだ。さらに伯爵の教育係の歌が生彩を欠き、ここで舞台の盛り上がりに水を差した感がある。

ところが第2幕では一転、アンサンブルが見事に決まりだし、シラグーザの歌もずいぶんスムースになり歌い手たちがどんどん乗っていく。光岡暁恵さんもなかなかいい。シラグーザとの相性も良さそうだ。2日前の佐藤美枝子さんはあまり役柄と合っていなかったと聞いたが、この日の光岡さんを見ていると何となく想像がつくのが面白い。

他愛がなく非現実的なストーリー、変装も適当だし有り得ない人違いという舞台上の動きもご愛敬、それでも楽しいのは推進力のあるロッシーニの音楽があるから。シラグーザ自身も第2幕の出来には満足したのか、ずいぶん長いカーテンコールで、私は最後まで付き合わず席を立つ。ロビーでは関係者の打ち上げらしい準備のようすを横目に、下町のエスニック目指して東京文化会館を後にする。

80周年記念公演だそうである。私がオペラを観だしてからでも40年以上経つから、その倍の期間になる。さすがに藤原義江の舞台は観ていないが、五十嵐喜好が歌っていた頃は知っている。その頃と比べると、というか比べるのも可笑しいほどのレベルの向上がある。世界のトップシンガーが混じっても、さほど突出感がないというのがその証だろう。100周年を迎えるときにどうなっているか楽しみだ。

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