大阪フィル定期 ~ これでしばらく…
2014/2/21

公演のチラシ

これが今シーズンの大阪フィル定期演奏会の最後になるだろう。いや、当日シニア券が廃止になる4月からは足が遠のくに違いない。ともかく、開演20分前に1000円のチケットを買って入場、A席とは言いながら前から2列目、音のほうは期待できない。でも今日は声楽付きのプログラム、舞台横よりはずっとマシだ。

一人のソプラノがイゾルデとマーラーの第4交響曲のソロを歌うというのは異例ではないだろうか。どちらかと言えば後者はリリコ・レッジェーロの人がよくするものだ。そして独墺作品の指揮台に立つのは若いイタリア人、もっともこの人はドイツのオペラハウスでコンサートマスターをしていたらしいから、得意分野なのかも。

ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」第1幕前奏曲~"イゾルデの愛の死"
 マーラー:交響曲第4番ト長調
 独唱:マグダレーナ・アンナ・ホフマン
 指揮:ガエタノ・デスピノーサ
 ザ・シンフォニーホール

演奏者の国籍云々で音楽を論じることなど今の時代にはナンセンスでしかないが、それでも自ずと滲み出るテイストがあるものだ。デスピノーサの場合、全く粘らないワーグナーと言っても差し支えなかろう。私はこういうワーグナーはあってもいいと思うし、どちらかと言えば好きなほうだ。音楽の見通しの良さ、すっきりとした味わい、この作品の毒を味わいたい向きには何だこれという感じかも。大阪フィルの音色も軽いし、テンポの動きもきびきびとしたものだ。同じことがホフマンにも言える。輪郭がはっきりと透明感のある声、叫びまくる重量系のワーグナー歌いとは別物だ。こういう時代になって来たんだろう。カルロス・クライバーが録音のときにマーガレット・プライスを起用した頃からか、もっと前のカラヤンの指輪録音の頃からか。ホフマンの歌にはいい意味で歌曲を聴く風情さえある。

そして、マーラー、こちらではワーグナーと逆のことが言える。すなわち、軽すぎる声では多彩なオーケストラと対峙して表現の幅を繰り出すには無理があり、しっかりとした質感のある声でないと歌が生きない。指揮台の横にスペースがないなあと思っていたら、第4楽章の前に舞台上手からオーケストラ後方の雛壇に登るという趣向、ソリストがオーケストラの向う側でも大丈夫なのだ。

従来の感覚だと、ワーグナーには軽く、マーラーのこの曲には重いという位置に彼女の声があるのだろう。いや、それは違う。私は、これでいいのだという気持ち。指揮者との相性も良さそう。デスピノーサのリードも他の楽章も含め衒いのない素直なアプローチでこの曲に相応しい。むかし録音で聴いたメンゲルベルグの超こってりとした演奏を思い出すと両者の違いに唖然とするほど、時代とともにテイストも変わる。

ホフマンは大柄な人である。ブルーのドレスにブロンドが映える。なるほど、スウェーデンの国旗の色はここから来ているのかと思ったら、ポーランド人だった。まあ、オランダ人も大きいから、ポーランドだって。

すっきりした気分の演奏会だった。でも、大阪フィルの定期演奏会に次に来るのはいつだろう。以下は少し前に大阪フィルのファンサイトに私が投稿したもの。その後、同調も反論もない。ネガティブ・キャンペーンを張るつもりなどないが、どこまでファン目線で考えているのだろうとの疑問は消えない。

大阪フィルの新シーズン定期、会場はフェスに移り、気になるチケットについては、学生席を拡充しシニア券は廃止ということになった。若い聴衆の獲得が急務なことは判る。でも、いま聴きに来ている人は今後も来る。ファンでない学生を新たに呼び込むには1000円じゃ高い、ワンコイン500円が適正かと思う。いまどきの学生は質素、ユニクロの服を来て外食はラーメンとかコンビニ弁当、そこにかなりの通信費が固定費としてある。彼らに馴染みのないコンサートに行く気にさせるには、1000円だとハードルが高い。
 一日あたり1000人もキャパが増えるので、3階を学生専用として空席はそこに集め、見た目の閑古鳥感を緩和する方針だと思うが、よほどのプログラムでない限り、下の階は歯抜け、上の階はガラガラという事態が出現するかも。
 なまじシニア券を設けたばかりにそちらに中高年が流れ減収を余儀なくされたと考えているふしがある。一方で、シニア券がなくなったらもう行かないだろうと言う友人がいる。私にしても1000円ならハズレでも後悔しないから毎回のように足を運んだが、4000円になるとそうは行かない。客演指揮者の顔ぶれが魅力の西宮のオーケストラや、あっと驚く先鋭的プログラムの堺のオーケストラの定期なら1000円で聴ける。当然、大阪フィルの公演については選択的になる。
 シニア券の1/4が来場すれば収入的には同等にしても、客席が淋しくなる以上に失うものが大きい。オーケストラの財政難は判るが、これは危険な賭け、私の予測は悲観的だ。来シーズンのラインアップを眺めて新鮮味や挑戦意欲を感じるところがあまりにも少ないし、オーケストラ側の事情や発想でものごとが決められ、客の側がどう感じるか、どう行動するかへの洞察力に欠けていると思うのが正直なところ。これが杞憂になれば結構なことだとは思うが。

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