京都市立芸術大学「ピーア・デ・トロメイ」 ~ 偶然のたまもの
2014/2/22

職場で購読している京都新聞、子細に目を通すことはないのに文化欄の小さな記事にふと気がついた。「ピーア・デ・トロメイ」、京都市立芸術大学での公演、しかも無料、先着400名。土曜日は仕事だけど午前中で終わる。これは行かない手はない。たぶん在学生の発表会的な公演に違いないとは思うが、滅多にかかることのないオペラだし。このドニゼッティ作品は昭和音楽大学のテアトロ・ジーリオ・ショウワで何年か前に上演されたが、それは見逃した。

阪急桂駅からバスで20分、国道9号に出るまでずいぶん狭い市街地の道を行く。バスが通ると対向する車と接触しそうなぐらい。洛西地区は何とも交通の便が悪い。通勤する人たちは大変だろう。京都縦貫道沓掛インターの手前に芸大前という停留所があるのは、仕事で福知山方面に出かけるときに気がついていたが、市内とは言え辺鄙なところのキャンパスだ。もっとも、東京だって八王子の山のなかに大学がいっぱいあるけど。

公演のチラシ

ドニゼッティ「ピーア・デ・トロメイ」
 ピーア:(1幕前半)大森花
 ピーア:(1幕前半・2幕後半)松崎絵美
 ピーア:(2幕後半)吉田早希
 ギーノ:川崎慎一郎
 ネッロ:砂田麗央
 ロドリーゴ:加藤裕子
 ビーチェ:清水希
 ランベルト:本智敬
 ウバルド:本智敬
 ランベルト:喜納和
 ピエーロ:内山健人
 牢番:大西凌
 合唱:京都市立芸術大学音楽学部合唱団
 管弦楽:京都市立芸術大学アカデミーオーケストラ
 指揮:奥村哲也
 演出:松本重孝
 京都市立芸術大学講堂

タイトルロールのピーアに3人もクレジットされているのは、いかにも芸大オペラという感じ、二日で5人、数の多いソプラノに出演機会を割り振るという苦肉の策とも見えるが、野暮なことを言っても仕方ない。それだけピーアの比重が高いプリマドンナオペラだ、といっても観るのも聴くのも初めて。万遍なく聴かせどころがあるから、こういう配役も可能になる。第1幕のデュエットからアンサンブルフィナーレ、続く第2幕の前半を任される松崎さんに一日の長があるのはすぐ分かる。前の大森さんは硬さが見られ、後の吉田さんは個性的というか、ちょっと独特の声だ。

正直なところ第1幕第3場までは眠気を催す瞬間が多々あったのに、第4場になって加藤さんが登場して目が覚めた。ここから松崎さんとのデュエットを経て第1幕フィナーレまでがこの日の上演でいちばん良かったところだろう。川崎さんのテノールの強い声は貴重だが、高音にまだ難があるのと、一本調子のところはいただけない。

何だかんだと言っても、この人たちを今の時点で評価するのは酷だろう。器楽奏者ならともかく声楽家はまだ先がある。プロへの道を進むのか、音楽教師とか諸々の多少とも音楽と関わりのある仕事に就くのか、それとも全く関係なくなるのか、それは分からない。

これは「ルチア」の後の作品、「ロベルト・デヴェリュー」と同じ時期のよう、いずれもサルヴァドーレ・カンマラーノの台本だ。「ピーア・デ・トロメイ」第1幕のコンチェルタートはルチアのそれをを彷彿とさせるし、第2幕には狂乱の場のようなソロもある。ただ、音楽の魅力は「ルチア」に及ばないし、「オセロ」と「ロメオとジュリエット」を合体させたようなお話は脈絡が怪しいところもある。そんなところが上演が稀な理由かも知れない。ただタイトルロールに人を得たなら聴き応えのあるオペラになりそうだ。多作のドニゼッティのこと、タイトルは知っていても、まだ観たことも聴いたこともない作品がたくさんある。

この大学は確か佐渡裕さんの出身校のはず。今回の公演、第146回定期演奏会になるらしい。なるほど、校舎も古いし500人ほど収容の講堂も年代物だ。京都市ではJR京都駅の東側、今は更地になっている東海道線と塩小路通に挟まれた土地への移転を決めたようだ。ただ、実際にこの交通至便な場所に京都市立芸術大学が移るのはかなり先になるだろう。不便な西山の麓までバスに揺られてだと無料でないと難しいが、京都駅前ならチケットを販売しても人は集まるに違いない。

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