大井浩明 plays Mahler 5 ~ マニアック集合
2014/2/26

会場の喫茶店

「ぶらあぼ」のコンサートガイドに載っていた奇妙な公演、職場からも近いし行ってみるかと恐る恐るネット予約、何しろ40名限定のカフェでの催し、さぞかしヘンな人たちが集まるのではないかと…

マーラー:交響曲第5番嬰ハ短調
  第1・2・3・5楽章…O.ジンガー編ピアノ独奏版
  第4楽章…杉山洋一:《間奏曲第VIII番「スーパー・アダージェット」》
             ~マーラー交響曲第5番第4楽章に基づく
  ピアノ:大井浩明

コンサートのチラシ

地下鉄丸太町駅で降り、家具の店が目立つ夷川通を東に行くこと5分、半地下になったカフェ・モンタージュに辿り着く。いろいろの椅子が並んだ小学校の教室ほどの広さの店内は、テーブルはすっかり片付けられていて、奥にピアノ、調律の仕上げのようす。10分前なので既にあらかた椅子が埋まっている。壁際には古いLPレコードのラックやCDや楽譜などが並んでいる。ここは相当コアな店のようだ。ライブ・スケジュールを見てもマニアックなものが満載だ。でも思いのほか聴衆はノーマルな人のようで、安心。

大井浩明さんのピアノを聴くのは3回目のはず。最初は10年ほど前に会社の後輩に誘われて出かけた隅田川の畔、アサヒビールのロビー、現代音楽マニアの若い友人も既に鬼籍に入った。プログラムが葬送行進曲で始まる交響曲というのも何かの因縁。

シンフォニーをピアノ独奏に編曲するというのは、リバース・エンジニアリングのようなものかと思うし、何らかの必要があってのことなのか判らない私は素人そのもの。これがオペラならコレペティートアの仕事に欠かせないのは自明だけど。ピアノ曲からオーケストラへの編曲だったらムソルグスキー=ラヴェルの大傑作を筆頭に数多あるのだが、ピアノに落として傑作という例を知らない。我ながら、なんだか物見高い聴衆という感もある。でも、そんな人が40人もいるのだから京都も奥が深い。今日の演目は本邦初演のようだ。

ピアノ1台で弾かれるマーラーは木に竹を接ぐようなギクシャク感が一層強調される感じだ。オーケストラのパートで受け渡しされるときは何とも思わないのに。そしてこの作曲家特有のグロテスクさも際だつ。これはこれで面白いし、ここはあの楽器に割り振られたパッセージだなあなんて思いながら聴くのも楽しい。一方でこんな音がシンフォニーのどこにあったのかなと思うようなフレーズも現れる。全く同じ小節数で処理しているのかどうかも知らないし、きっと付け足しも割愛もあるのだろう。

面白いのはオットー・ジンガーという人の編曲版の第4楽章アダージェットが、邦人作曲家の新作に差し替えられていること。前者は「ちょっと音が少ないねえ」ということで取っ替えたということらしい。確かに第1楽章ともども緩い流れの音楽はピアノとの相性が悪い。いったん出した音は減衰するのみで、ペダルを使ったところで持続にも限度がある。当たり前のことを、オーケストラの原曲を知っているだけに否が応でも実感する。そのぶん、フィナーレのロンドなどはピアノの煌びやかさが生きる。コーダ部分など光彩陸離たる趣きさえあり、こんな部分は素晴らしい。

20:00開演、帰路が長い私は振る舞いのグラスワインを頂戴して地下鉄へ。なお、大井さんは来月初め、芦屋で第4番と第6番のダブルビルを連弾で披露する予定とか。

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