飯守泰次郎/関西フィルの「ジークフリート」第3幕 ~ 思いのほか
2014/6/13

四年に一度のビッグイベントが始まると、コンサートどころではなくなる。とは言っても、このシリーズは聴き逃せない。朝の5時から開幕戦を観て、夜はワーグナーなので長い一日になる。

ワーグナー:楽劇「ジークフリート」第3幕
   (演奏会形式による原語上演,字幕付き)
  ジークフリート:ジャンルカ・ザンピエーリ
  ブリュンヒルデ:畑田弘美
  エルダ:竹本節子
  さすらい人:片桐直樹
  指揮:飯守泰次郎
  管弦楽:関西フィルハーモニー管弦楽団

私は知らなかったのだが、主役のキャスト変更があると友だちが教えてくれた。この関西フィルのドイツオペラシリーズの看板とも言える竹田昌弘さんが出ないのは、本田選手の名前がない日本代表チームみたいなもの、公演中止となっても不思議じゃない。アナウンスされたジークフリート役の名前は聞いたことがない。飯守さんのプレトークによれば、代役が決まったのは一週間前だという。きっとワーグナーの主役テノールをイタリア人が歌うのを聴くのは初めてだろう。まあ、日本で日本人がワーグナーを歌っているのだから、どれだけ上演しているかはともかく、イタリアでイタリア人が歌っているのは当たり前かも。

なんだかこのシリーズで聴いてきた音とは違う。軽くて、薄い。覆いのある穴ぐらのようなオーケストラピットと、演奏会形式の舞台上とは極端に条件が違うから、この作品で声との適切なバランスを保とうとすれば勢いオーケストラは抑制気味に鳴らさないと身も蓋もなくなるにしても、それだけではない。軽い、薄いというだけでなく、持続がないというか、長いうねりのような流れが切れ切れになる印象だ。要所要所に置かれた音楽的なクライマックスが前後と不連続になっているみたいだ。飯守さん、じっくり仕上げるには初台の仕事が忙し過ぎるのかも知れない。

三つの場面からなる第3幕、さすらい人とエルダの場面はちと退屈だった。眠気が襲う頃にジークフリートの登場で目が覚める。ラダメスやカヴァラドッシを歌う人といっても、やはりヘンデン・テノールではない。声の張りなどは竹田さんのほうが勝る。竹田さんがいいのはドイツっぽくない声の輝きもあること。まあ、いない人のことを言っても詮方ない。ザンピエーリ氏は急な代役を一生懸命務めたと思う。ワーグナーだからといってヘンに重々しい声じゃないのは好みなんだが、やや力不足の感は否めない。それでも事情を心得た客席からは大きな拍手、カーテンコールでジークフリートが愛嬌たっぷりというのもなんだか可笑しい。

19:00開演で休憩なし、通常は5分遅れで始まるコンサートが10分遅れ、80分ほどの幕だからいつもより早く終わる。そのせいでもないが充足感はいまひとつに終わった。事務局の人に聞いたら、演奏会形式のオペラ、隔年のスケジュールとのことなので次は2年後か。

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