佐渡オペラ「コジ・ファン・トゥッテ」 ~ 10年の進化
2014/7/18

京都で祇園祭、大阪で天神祭、この季節の西宮の風物詩は佐渡オペラ。今年は某お騒がせ県議に話題をさらわれてしまった感もある西宮だが、こちらのイベントももう10年目、すっかり定着した。その初日を観る。

公演のチラシ

フィオルディリージ:スザンナ・フィリップス
 ドラベッラ:サンドラ・ピケス・エディ
 グリエルモ:ジョン・ムーア
 フェルランド:チャド・シェルトン
 デスピーナ:リュボフ・ペトロヴァ
 ドン・アルフォンソ:ロッド・ギルフリー
 合唱:ひょうごプロデュースオペラ合唱団
 管弦楽:兵庫芸術文化センター管弦楽団
 指揮:佐渡裕
 演出:デヴィッド・ニース
 装置・衣裳:ロバート・F・パージオラ
 合唱指揮:矢澤定明

夏の休みの第1弾、カミサンと車で西宮まで。奈良から1時間足らず。三連休の前、平日のマチネだというのに客席はほぼ満席だ。いつもながらここの集客力は素晴らしい。この10年間に上演してきた作品は、「ヘンゼルとグレーテル」「蝶々夫人」「魔笛」「メリー・ウィドウ」「カルメン」「キャンディード」「こうもり」「トスカ」「セヴィリアの理髪師」、というところ、「キャンディード」を除けば、有名で上演回数も多く、舞台も変化に富むというオペラだが、今回の「コジ・ファン・トゥッテ」はそうではない。いくら作曲がモーツァルトだからといっても、登場人物は6人だけ、組み合わせを変えつつアンサンブルの連続、しかも荒唐無稽なストーリーで3時間。こういうオペラを取り上げて8回公演が埋まるのだから大したものだ。提供する側の努力は当然大きな要因だが、多くのファンが育ってきたということでもあるだろう。

今回のキャスティングは欧米系とアジア系に分けたダブルキャスト、こういうスタイルはたぶん初めてかも。初日の欧米系キャストを聴いた印象は、よくこれだけ揃えたという感じ、新国立劇場と全く遜色ない。

スザンナ・フィリップスはライジング・スターだ。メットでの登場が増えている人のようで、ルネ・フレミングの後を襲うというぐらいの人かも知れない。いずれにせよ、これから輝かしいキャリアを手に入れるに違いない。大きなアリアが二つ与えられているように、二組の恋人たちの中でフィオルディリージがプリマであるのは当然にしても、フィリップスの歌の存在感と芯のある若々しい声は魅力的だ。溌剌と勢いのあるソロの一方で、アンサンプルの一翼を担うときのバランス感覚にも秀でている。きっと頭のいい歌い手なんだろう。

それで、他の歌手はというと、女性上位の感は否めないにしても、なかなかバランスが取れている。ベテランではなく、若手のこれからという人たちを集めたキャスティングは、佐渡オペラのシリーズのなかでもベストに近いのではなかろうか。

モーツァルトのオペラは長い。各幕がワーグナーの楽劇と同じぐらいの時間を要する。もっともあちらが長広舌なのに対して、こちらは退屈で余計な音楽が混じるという違いはあるが、今回それをあまり感じなかったのは歌い手が揃っていたこと、初日なのにアンサンブルが整っていたことが大きいかも。

佐渡さん指揮のオーケストラは幕開きのテンポ設定が速すぎて、先に行ってしまうようなところが見られたが、その後は巡航速度に入り快調となった。弦楽器の人数をヴァイオリンなど1プルト減らしてもいいぐらいに思うが、それは私の聴いたピットに近いバルコニーという位置のせいかも知れない。フィリップスの場合はちょうどいいバランスだったから、やはりメットで歌う歌手だなと、妙なところでも感心。

さて、このオペラでいつも関心を集めるのが演出。デヴィッド・ニースがどういうことをやるのか楽しみだったが、いささか拍子抜けだ。カミサンは「訳のわからんヘンな演出じゃなくて、綺麗な舞台でよかったわ」ということで、それがマジョリティーの意見であることは承知しつつも、あまりにオーソドックスで、これはジョークかと思う私はひねくれ者。もちろん、結末は恋人同士が元の鞘に戻るとは思えないよそよそしさを臭わしてはいるけれど。

先般NHK-BSで放映された新国立劇場のダミアーノ・ミキエレットの演出を友だちからもらったDVDで公演翌日に見る。現代のキャンプ場に置き換えたもので、舞台を観たさる高名な音楽学者が激怒したという代物である。私の印象、そりゃこっちのほうがずっと面白いし、軽薄な登場人物たちは設定変更でアクチュアリティが遙かに高まっている。まあ、いきなりミキエレット演出のようなものを提示するには時期尚早との判断があるにしても、10年経って阪神間のファンも成熟してきているし、そろそろ冒険に足を踏み入れてもよい時期かも。

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