サイトウキネンフェスティバル「ファルスタッフ」 ~ 退嬰の気配
2014/8/22
来年から「セイジ・オザワ松本フェスティバル」に改称するそうである。存命中に名前を冠するなんて、私なら縁起でもないと思うのだが、総監督は意に介さないのだろうか。健康上の問題から指揮台に立つことも稀になっただけに気になることだ。
ファルスタッフ:クイン・ケルシー
フォード:マッシモ・カヴァレッティ
フェントン:パオロ・ファナーレ
アリーチェ:マイテ・アルベローラ
ナンネッタ:モーリーン・マッケイ
クイックリー夫人:ジェーン・ヘンシェル
メグ:ジェイミー・バートン
バルドルフォ:キース・ジェイムソン
ピストーラ:デイヴィッド・ソアー
カイウス:ラウール・ヒメネズ
合唱:SKF松本合唱団
管弦楽:サイトウ・キネン・オーケストラ
指揮:ファビオ・ルイージ
演出:デイヴィッド・ニース
装置・衣裳:ロバート・ペルジオーラ
照明:リック・フィッシャー
こちらは夏休みを取っての信州行きだけど、さすがに平日の公演ともなると客席が淋しい。いつも座るバルコニー席には人の姿がない。おかげで上階とはいえ舞台正面のポジションなので良いところもある。
もう20年以上も続いているフェスティバル、これまでのオペラのラインアップはメインストリームのレパートリーではなくニッチ路線そのもの。逆説的だが小澤征爾氏がオペラの指揮で存在感を示すことができた作品群とも言える。二度目の「ファルスタッフ」は例外的に有名作品だが、ヴェルディ作品のコアレパートリーではない。昨年がヴェルディ生誕200年、もっとも1813年10月10日の生まれなので記念の年はまだ終わっていない。それで取り上げられたのかどうかは知らないが。
来日メンバーで固めた配役、指揮台にはメットで活躍しているルイージ、こうなるとどこがサイトウキネンフェスティバルなのかと突っ込みたくもなる。オーケストラが主役のイベントと言うにしてはこれはオペラである。若い人たちを並べた歌い手の粒は揃っているし、ルイージの音楽の進め方も小気味のいいものだ。もっとも、この達者なオーケストラがヴェルディの呼吸を身につけている訳でないのは周知のこと、それ故にニッチというか無国籍というか、そんなレパートリーをこれまで取り上げてきたとも言える。
ちっとも悪くないし、アンサンブルもきちんとしているんだけど、音楽が沸き立ち楽しさが溢れる喜劇オペラの姿が現れてこない。どことなく取り澄ました冷静さがつきまとう演奏に聞こえる。まるで演奏会形式で聞いているような感じ。それはデビッド・ニースの何の変哲もない舞台づくりにも起因する。小ぎれいなだけで何の刺激もない、7月の西宮のオペラと同じ、いまどきこんな演出家をわざわざ招聘する必要が果たしてあるのだろうか。
来年、オペラ公演はどうするのだろう。松本に行かないと観られない聴けない演目やキャストでなければ、もう夏休みは北アルプスの山登りだけにしてもいいかも知れないなあ。ともあれ、小澤征爾氏はシンフォニーを振ったようなので、得意な作品での復活を期待したい。間違ってもメモリアルとならないことを祈りたい。