新国立劇場「マノン・レスコー」 ~ 震災から4年
2015/3/15
東日本大震災で公演中止を余儀なくされた因縁の演目、4年を経てようやく舞台にかかる。あの震災の日は伊丹から夕方の仙台便で飛ぶ予定だった。半日早ければ現地で大災害に遭遇していたはず。もう4年、まだ4年、上演頻度の低い佳作を観るために今度はピーチで成田に飛ぶ。
泉佐野市にふるさと納税10,000円、後で寄付金控除の還付があるため実質負担は2,000円、それで5,000円分のピーチポイントが付く。つまり、多少の手間をかけると3,000円貰える計算になる。これを頻繁に案内が来るピーチのセールの際に充当すると、関空・成田の片道はほとんどタダになる。これなら今年は納税額を増やしてもいいかも。と、そこまではよかったのだが…
14:00開演に間に合うには朝の便に乗る必要がある。出発は7:25、搭乗手続は30分前までなので6:45には第2ターミナルに着いていたい。それで、列車の時刻はと、検索してみると…ない。始発に乗れば大丈夫と思っていたのが甘かった。近鉄奈良線だと間に合わない。前泊したら何のためのLCCかということに。はて、どうする。ところが、何とかなるのだ。近鉄学園前駅を4:30に発車する奈良交通の空港リムジンバスがあった。夜中に一駅分を歩き辿り着くと、いる、いる、未明のバス停に10人を超えるご同輩。LCCはすっかり関西に定着したということだろう。
デ・グリュー:グスターヴォ・ポルタ
レスコー:ダリボール・イェニス
ジェロント:妻屋秀和
エドモンド:望月哲也
旅籠屋の主人:鹿野由之
舞踏教師:羽山晃生
音楽家:井坂惠
軍曹:大塚博章
点灯夫:松浦健
海軍司令官:森口賢二
合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京交響楽団
指揮:ピエール・ジョルジョ・モランディ
演出:ジルベール・デフロ
装置:衣裳:ウィリアム・オルランディ
照明:ロベルト・ヴェントゥーリ
とんでもない早起きだったけど、お昼のアルコールを封印したおかげで居眠りは出ず。「マノン・レスコー」はプッチーニの中でも大好きな作品だし、久しぶりに接する舞台ということもある。ところが期待ほどには行かないのだから、世の中こんなものか。何しろ第1幕の低調ぶりが半端じゃない。
デ・グリューのグスターヴォ・ポルタは4年前にクレジットされていた人とのことだが、失礼ながらアンダーの歌手が急遽舞台に立ったのではないかと思うほど。第1幕には"Tra voi, belle, brune e bionde "と"Donna non vidi mai"、テノールの重要なソロが二つあるのに、どちらもパッサジォの音域で声が引っ込み上と下が分断されて音色もバラバラ、それが素人にも明瞭に判るのだからプロとしてはみっともない。太鼓腹のデ・グリューには目をつぶってもいいが、オペラなんだから耳を塞ぐわけにもいかないし。この人、第2幕以降の音色は気にならなくなったから、最初は喉が温まっていなかったとも取れるけど、初回に大量失点した野球の試合のごとく多少の反撃では及ばないし。
彼の不調が目立ったにしても、第1幕は突っ込みどころ満載の趣きだった。エドモンドの望月哲也の音楽に乗れない雑な歌いぶりにもがっかり。二期会の公演で主役を歌うことも多い人、こういう脇役に回ったときにこそ真価が露わになる。端役だって、客席ではしっかり観ている、聴いている。
新国立劇場ではハズレのないはずのコーラスも今回は良くない。この第1幕は相当に難しいので、コーラスとして揃えるだけでなく、ソロとのバランスの加減も重要だ。それがゲネプロレベルと言っちゃなんだが、具合が良くない。これはどうしたことだろう。
白を基調とした舞台や衣装は美しいが、第1幕の学生食堂のような長いテーブルの装置は成功していない。室内外の人の動きもぎこちない。これがアンサンブルの破綻の一因ではないだろうかと邪推する。第3幕のルアーブルのシーンも、あれれという感じ。これは矢切の渡しか、アメリカに行く船が出る港とはとても思えない。
オーケストラはいつもの東京フィルではなく東京交響楽団、指揮はピエール・ジョルジョ・モランディ、音が固くて少々粗い感じの響き、声に寄り添うという雰囲気は希薄だ。間奏曲はとてもいい雰囲気だったのに、幕が上がっているときはそのレベルが低下する。思うに、ピットだけに光がある状態で演奏される間奏曲の効果は秀逸だ。コンサートホールではこの集中はまず得られない。
東京交響楽団はオペラに馴染んだオーケストラではないから仕方ないにしても、奏者たちが歌われている内容を知って演奏するのとそうでないのでは、やはり違うのではないだろうか。もちろんパート譜に声楽部分があるはずもないが、フルスコアまではいかなくてもヴォーカルスコアでも目を通したことのあるプレイヤーがどれだけいるだろう。これは国内のオペラ公演でいつも思うこと。指揮者がレクチュアすることもあるだろうけど、たぶんそれだけでは身につかないだろう。
マノン・レスコーのスヴェトラ・ヴァッシレヴァも4年前に予定されていた人、容姿はいいし、終幕のアリアもスピントを効かせて歌いきる力がある。レスコーを歌ったダリボール・イェニスは、スカラ座来日公演のロドリーゴ(「ドン・カルロ」)で聴いている。粗っぽい歌い方には感心しなかったが、ヤクザなキャラクターのレスコー役には合っている。
第2幕以降だけなら悪くない出来なので、それはけっこう楽しめたのだけど、返す返すも第1幕が悔やまれる。
考えてみると、私にとって今年初めてのオペラだ。のみならず。3月にしてコンサートにも行っていないのは不思議なこと。仕事でバタバタしていたこともあるし、関西では食指が動く公演がなかったこともあるが、長らくのご無沙汰になってしまった。でも、今は格安移動手段もあることだし、次は青春18きっぷで、「ヴァルキューレ」、「運命の力」のハシゴという目論見も。