"ムジークフェストなら"のフランスオペラ
2015/6/14

"ムジークフェストなら"というイベントがここ数年6月に開催されている。9月に開催される大阪クラシックみたいなもので、奈良市内を中心にあちこちで無料のミニコンサートがある。著名音楽家が並ぶわけではないので知名度は今ひとつの感があるが、今年はオペラもあるので出かけることにした。珠玉のフランス・オペラと題して「サムソンとデリラ」と「カルメン」のダブルビル、もちろん演奏会形式かつ抜粋なので、2時間のコンサートになるわけだ。奈良県庁の隣の奈良県文化会館が会場となる。この公演は有料、前売りで2000円。
 アマチュアか駆け出し演奏家がほとんどのイベントの中で、オーケストラは大阪交響楽団、歴としたプロだ。ところが指揮者はじめ、ソリストの名前は初めて聞く、さてどんな風になるのか。

公演のチラシです。  サン=サーンス:「サムソンとデリラ」抜粋
 ビゼー:「カルメン」抜粋
  マリアンヌ・デラカサグランド(メゾソプラノ)
  後田翔平(テノール)
  駒田敏章(バリトン)
  珠玉のフランス・オペラ特別合唱団
  大阪交響楽団
  中田昌樹(指揮)

二つのオペラの主役に呼んでいるフランス人のメゾソプラノ、プログラムの紹介文を読んで思い出した。前にいずみホールで「サムソンとデリラ」に出ていた人らしい。その公演は「ぶらあぼ」で目にし、「はて、どういう団体だろう」と主催者に問い合わせた。待兼交響楽団というから大阪大学関連のよう。全曲上演というし行ってみるかと電話したものの、チケットを一般販売するのかどうか要領を得ない応対で、結局それっきりになった。あれはいったいなんだったのだろう。ともかくその時のメゾソプラノらしい。相手役のテノールとバリトンはまだこれからキャリアを積んでいこうという人、留学中とか新国立劇場の研修生とかの紹介文がある。

プログラムのバイオグラフィーでは、マルセイユのオペラ座でデビュー、その後シャトレ劇場、ベイルート、ツーロンオペラ座、ディジョン劇場を始めヨーロッパ各国のオペラ座に招かれたとあるから、微妙なところだ。こういうところを足がかりにして飛躍する人もいれば、大多数はそうではない。残念ながら彼女はその大多数に入りそう。声に魅力がないうえに体調不良かなのか高音域が苦しい。後者は訓練で改善しても前者は天性のものだからそうはいかない。2012年のいずみホールの公演はどうだったんだろう。大阪大学関係者の身内のコンサートだったからか、普通のオペラファンの評価はついぞ耳にしない。

指揮の中田昌樹氏は国立音楽大学を経てフランスで指揮を学んだ人らしいので、デラカサグランドを二度も呼ぶのは彼の地での縁があるのかも知れない。新国立劇場のオペラ研修所に講師として関わった経歴もあるので、バリトンの駒田敏章氏はそちらの縁だろう。そんな繋がりを想像しつつ聴くというのは、それだけ演奏がパッとしなかった証拠かも。でも、この駒田敏章氏は三人のソリストの中では見るものがある人だ。声を持ち合わせているし伸び代がある。

二つのオペラは各1時間程度に抜粋されていて、ドラマの進行どおりに演奏される。ヘンにブツ切りにせずに主要な場面はカットなしに演奏するのは好ましい。もっとも、客席はオペラに馴染みのない人がほとんどだったから、字幕もあるのだしお話の流れぐらいは表示したほうがよかっただろう。プログラムにも演奏されるナンバーについての説明がないのだ。
 コーラスが10人あまりと寂しい感じだが、準備もあるだろうしこれも致し方ないか。その結果、ソリスト、コーラスを圧するオーケストラの響きでどうしてもアンバランスになってしまう。それと、筋立て的にはカットできてもミカエラがいない「カルメン」は音楽的にはちょっと物足りない。

難を言えばきりがないが、主催側も手探り、手作り感のある公演と言える。予約をしたのはPeatixというイベント管理システム、スマートフォンの画面がチケット代わりだが、会場入口でリストと照合する可笑しさ、途中休憩の際には、「これよりしばらく休憩します」とのゆるいアナウンスがいかにも奈良らしい。文化会館の前の芝生では、新しい角が生えてきた雄鹿がのんびり歩いているし。

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