関西二期会「アンドレア・シェニエ」 〜 羽ばたけ球児
2015/6/27・28

関西では公的資金の削減の影響か、オーケストラもオペラも最低価格が上昇気味のところ、この関西二期会の公演は最安席1000円で頑張っているのは立派だ。値段に惹かれてというわけではないが、土曜、日曜の両日のチケットを早々に確保した。公演のチラシです。2011年の川西のみつなかホール、フェルナンド(ドニゼッティ「ラ・ファヴォリータ」)で仰天して以来、キャストに藤田卓也の名前を見ると慌ててチケットを購入するのが習いになっている。

アンドレア・シェニエ:松本薫平/藤田卓也
 ジェラール:大谷圭介/油井宏隆
 マッダレーナ:泉貴子/ 尾崎比佐子
 ベルシ:西村薫/山田愛子
 コワニー伯爵夫人:阪上真知子/安本佳苗
 マデロン:岸畑真由子/井上美和
 ルーシェ:西田昭広/片桐直樹
 フレヴェル / フーキエ・タンヴィル:大西信太郎/吉田昌樹
 マテュー:鳥山浩詩/萩原次己
 修道院長 / 密偵:山中幸治/藤田大輔
 シュミット / 主人 / 裁判長:黒田まさき/服部英生
 合唱:関西二期会合唱団
 管弦楽:大阪交響楽団
 指揮:ダニエーレ・アジマン
 演出:デジャン・プロシェフ
 吹田市文化会館メイシアター

会場で配布されたプログラムで、藤田さんの紹介に藤原歌劇団団員となっていたので驚いた。いったい、いつの間に。ふつう二期会の公演に藤原歌劇団の人が出ることはないから、藤原入りが決まったのは最近のことかも。12月にはオーチャードホールでリッカルド(あるいはグスターヴォ三世)を歌うようだ。いよいよ中央に本格的に進出なのか。その前の9月には三たび川西で、今度はポリオーネ(ベッリーニ「ノルマ」、残念ながら並河さんのタイトルロールとは別の日)が聴ける。従来はフリーの立場で関西を中心に客演していたが、これからの軸足は東になるのだろう。でも、国内にとどまっていて欲しくない逸材なんだけど。別に頼まれた訳でも、ファンクラブでもないのに、日曜日の幕間には会場でお見かけした東京のかたに、藤田さんの素晴らしさを力説してしまった。

さて、今回の公演の出来映え、ダブルキャストの日曜日のほうが、格段に素晴らしいものだった。

土曜日の松本薫平さんは良かったのだが、他の主役二人が感心しない。特にこのオペラで肝になるジェラールがいまひとつではオペラが低調に流れる。大谷圭介さんの歌は余計な力が入って響きが汚く薄くなる。強い声はあるのだが、それを出すために他の部分が犠牲になって音楽の流れがぎくしゃくするという、若い歌手にありがちな悪癖だ。ヴェリズモといえどもベルカントであってほしい。それに、この役柄は決して悪人ではない。

ヒロインの泉貴子さんは前にも感じたことだが、あまり成長が感じられない。豊麗な美声、それだけで良しとする向きもあろうが、表現力の深まりがない。素質充分なだけに惜しいことだ。有名なアリアをリサイタルで綺麗に歌う延長にオペラはないと思う。最近NHKで放映された「カラスvsテバルディ」というドキュメンタリー番組、数日前にその録画を観たときの印象そのまま。あのドキュメンタリーでは二人が歌う同じアリアを交互に繋いだ映像を最初と最後に流していたが、美声と表現力の対比というか、あれを聴くとテバルディの歌がやけに平板に聞こえてしまう恐ろしい映像だった。もっとも、カラスの声を私は好まないのだけど。

結局、土曜日は松本薫平さんのシェニエだけという感じ。バッサジォで声がやや詰まり気味になるところがあるが、その上下の音色は魅力的だ。イタリアのテノールの声に近いものをこの人は持っている。言葉の明晰さも大変好ましい。共演者との相乗効果があれば良かったのだけど。

日曜日の公演は、先ず登場するジェラールの油木宏隆さんがいいのにびっくりした。この役がしっかりすると本当にオペラになる。それに、幕開きに登場する主要人物だから、オペラの行く末を左右しかねないだけに余計に大事だ。油井さんには大谷さんにない響きの美しさがある。力強さと美しさは本来両立するものだということが判る。ただ第3幕の有名なアリアの最後のきばりはいただけない。大向こう受けなど余計だ。

尾崎比佐子さんは泉さんと対照的だ。泉さんのほうがスケールは大きいけれど、尾崎さんはドラマに沿った表現が細やかだ。第3幕のアリアは声の威力だけでは感動は伴わないと実感する。

それで、冒頭に述べた藤田さん。この人の声域からすると、シェニエなど歌わずに超高音が頻出するベルカントものを聴きたいところだが、なかなかどうして、前に聴いたリッカルドと同様にリリコの役柄もこなしてしまう。声の力強さも増したような感じだ。聴かせどころの2つのアリアは大喝采(筋金入りのゴーアーが多い東京ならもっと、だろう)。こちらではファンも増えているようで、ロビーに大きな花輪も飾られていた。藤原歌劇団では実績のある役柄でスタートするようだが、彼にしか歌えないロールで舞台に立つ日が来てほしいと思う。

つい先日、奈良で聴いたオペラもオーケストラは大阪交響楽団だった。あのときの演奏はやや粗いものだったが、今回はずいぶんと丁寧だ。その分、このオペラに内在するエネルギーが開放されていない印象もある。手堅い指揮のせいということかも。

主役では問題のある人もいたが、今回は両日とも脇役の充実ぶりが目覚ましい。ルーシェ役の西田昭広さんや片桐直樹さんは主役を歌う人たちだし、出番の少ない他の人物も力演だ。第1幕や第2幕はやたら人の出入りが多くて繋がりに欠く印象もある台本なので、演出家泣かせかも知れない。土曜日はそれがやけに目についた。日曜日にはだいぶスムースになったような気がしたのは、2日目ということもあるし、歌い手の大健闘でそっちが気にならなかったということもあるかも。やはり、ダブルキャストは両方聴くべしか。

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