並河寿美/藤田卓也ジョイントコンサート ~ DIVA×DIVO
2015/7/26

台風が去り梅雨が明けると酷暑、この週末はすっかり夏バテ気味のところ、炎天下に堺のはずれまで。堺市栂文化会館ホールで行われる二人の歌手のジョイントコンサートに出かける。
 失礼だが、まさかこんなところで、こんな顔ぶれのコンサートがあるなんて、友だちから教えてもらわなかったら見逃していたところだ。関西を代表すると言うか、今や日本のトップシンガーの二人がこういう形で歌うのは間違いなく聴きものだ。

ここは、難波から約30分、堺市南区になるのだが、田舎の丘陵地帯が広がっていたところだ。40年ぐらい前に宅地開発されて泉北高速鉄道が開通、当時の中堅サラリーマンが持ち家を購入したしたあたり、その頃に上司の家にお邪魔したことがある。もうその人たちもリタイア世代だし、街も歳月を重ねている。ホールは栂・美木多駅のすぐそば、場所を尋ねるまでもなく駅構内からホールが見える。市立図書館の分館が隣にあり、開場までの時間つぶしをする。ホールの人に聞くと開館30年、709名の収容とのこと。こぢんまりとしたホールだ。館内の案内板に「弁当・おやつ・ジュース等をたべないで」なんてあるのを見ると、普段どういう催しに使われているのかが想像できる。ピアノの発表会に出ていた子供たちももう親になっているだろう。

公演のチラシです。 駅のすぐそばのホール ホール内の表示

並河寿美(ソプラノ)・藤田卓也(テノール)・西寿美(ピアノ)

Caro mio ben (いとしい貴方) …並河
 Ombra mai fu (樹木の陰で) …藤田
 Lascia ch’io pianga (私を泣かせて) …並河
 Il bacio (くちづけ) …並河
  'O sole mio (私の太陽) …藤田
 Core ‘ngrato (つれない心/カタリ) …藤田
 Dien ist mein ganzes Herz (君はわが心のすべて) …藤田
 Meine Lippen, sie küssen so heiß (私の唇はかくも熱きくちづけを) …並河
 Lippen schweigen (唇は閉じても) …並河・藤田
 Tonight …並河・藤田
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 Mario! 〜 Ma falle gli occhi neri! (「トスカ」第1幕の二重唱) …並河・藤田
 C’est toi! 〜 Ma Carmen adorèe! (「カルメン」第4幕の二重唱) …並河・藤田
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 Nessun dorma! (「トゥーランドット」第3幕のアリア) …藤田
 Pangi? Perchè? 〜 Un bel di verdremo (「蝶々夫人」第2幕のアリア) …並河
 Libiamo ne’lieti calici … (「トラヴィアータ」第1幕の二重唱) …並河・藤田

前半は古いものから新しいものへ、スローなものからだんだんアップテンポに、言葉は伊・独・日(「メリーウィドウ」の二重唱)・米という構成。後半は二人の場面を演技・衣装付きでカットなしに続けてという、よく考えられたものだった。一曲ずつ歌ったあと、藤田さんがナビケーターとなりトークを交えてプログラムが進む。彼が話すのを初めて聞いたが、なかなか上手で間の取り方もいい。並河さんとは4年前の衝撃の「ファヴォリータ」以来の付き合いだと思うが、二人の呼吸も合っている。ピアノ伴奏はドイツのレーゲンスブルク歌劇場でコレペティトゥアを務めている西聡美さん。

この開始の二曲 、単純なメロディであるだけに、立派に歌うのはとても難しい。このレベルの歌手が歌うと音楽の格調がいや増すという感じ。そりゃもともとは名歌手のために書かれたオペラのアリアなんだし。
 藤田さんのナポレターナあたりから、会場の雰囲気も暖まってきた感じで、反応も良くなる。700人収容のホールが半分ぐらい、後部の座席はきれいに空だ。このコンサートの値打ちを知って来ている人が半分、残り半分は「トスカ」や「カルメン」なら行ってみようかな近くだし、という人たちだと思う。ただ、その半分もコンサートが終われば、すっごく良かったとなるに違いない。

藤田さんの「カタリ」が出色、ナポレターナの軽さは微塵もなくアリアを聴くよう。歌のフォルムは崩れずしかも感情移入が半端じゃない。一方でレハールのアリアは声域的にムラなく均質な声を出しにくいところがあるのかも、リヒャルト・タウバーの往年の録音で聴いて好きになった曲だけど、実はけっこう難しい曲のようだ。「メリーウィドウ」のデュエットは何故か訳詞で歌ったが、シチュエーションを理解してもらおうという意図か、両人は突っ立ってじゃなくて踊り付きだ。

さて、後半、どちらも恋人同士の場面だが、濡れ場と修羅場と対照的なものを歌う。それらしい衣装で、長いデュエットを初めから終わりまでノーカット、しかも演技付きなので、ピアノ伴奏とはいえオペラの舞台を見るよう。両名とも一切手抜きなしの熱演だ。声域の広い並河さんなので、両ヒロインのどちらにもマッチする。二人のバランス、声の絡みもいい。力のある歌手同士のデュエットの相互インスパイアが伝わってくる。聴き応えがある両ナンバーだった。

アンコールのカラフは圧倒的だ。こんな力強さと音色の美しさを兼備するテノールは数多くない。お盆に秩父でこの役を歌う予定があるようだが、首都圏のオペラゴーアーは12月の藤原歌劇団「仮面舞踏会」を待たずに出かけたほうがいい。

終演後、ロビーに出たら、並河さんと藤田さんが先回りしていて、舞台衣装のままで立礼していたのにはびっくりした。まるで披露宴だ。 アマチュアの公演ならともかく、もはや押しも押されぬトップシンガーたちなのに、これは珍しいことだ。そして、私も含めたくさんの人が声を掛けていたのも微笑ましい。そんなところがローカルな場所でのコンサートの良さかも知れない。

休憩時間に会場で見かけた指揮者の牧村邦彦氏と少しお話しした。秋の川西みつなかオペラでの「ノルマ」の稽古はもう始まったそうだ。今日の両人は別々の日に出演する。おかげで両日のチケットを購入する羽目になった私。
 藤田さんについては、「藤原に持って行かれちゃった」と笑っておられたが、彼を見出したのはこの人の功績だ。「ファヴォリータ」に続いて「清教徒」を取り上げたとき、これを歌うことに万全の歌手が揃ったといったようなことを書かれていたのを思い出す。
 「フローレスが震災のあと来日をキャンセルしましたけど、あの川西のフェルナンドを聴いて、代わりに歌えるテノールがここにいるじゃないかと思いましたよ」と言うと、とても嬉しそうだった。
 川西で起用する前に九州で共演する機会があったのがきっかけとか。藤田さんの藤原歌劇団への入団はこの4月からとのこと。そうなると、先に並河さんが二期会の所属となっているので、首都圏ではこの組合せの舞台はまず実現しない。関西ならその可能性は残るが、「藤原で彼にしか歌えない役をやるなら東京まで行きますけど、彼は国内で満足しないでほしいですね」と私。いいコンサートだった。

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