みつなかオペラ「ノルマ」 〜 スターは東へ?
2015/9/19・20

例年のみつなかオペラは、暑いなか川西まで出かけるイメージなのに、今年は秋の訪れが早いのか、涼しい風が心地よい。三年越しの ベッリーニのシリーズの最後は「ノルマ」だ。キャスティングは、並河寿美、藤田卓也の組合せじゃないのがミソ、したがって連日足を運ぶことになる。ホール前のポスターには「完売御礼」の札が踊っている。

公演のチラシ

ベッリーニ:「ノルマ」 (9/19、9/20)
  ノルマ:並河寿美、尾崎比佐子
  ポリオーネ:松本薫平、藤田卓也
  アダルジーザ:佐藤信子、木澤佐江子
  オロヴェーゾ:畑奨、片桐直樹
  クロティルデ:河野佳子、味岡真紀子
  フラーヴィオ:野津良佑、小林峻
  管弦楽:ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団 
  合唱:みつなかオペラ合唱団
  指揮:牧村邦彦 
  演出:井原広樹 

「ノルマ」を最初に観たのは、1992年のこと、タイトルロールに林康子、相手役がジュゼッペ・ジャコミーニという藤原歌劇団の公演だった。その後ずいぶん空いて、2003年が「ノルマ」の当たり年、エディタ・グルベローヴァ、ディミトラ・テオドッシュウという大物が日本で歌った。その名前だけみても、この役を歌うのは並大抵のソプラノではない。

なぜか、ソロ、アンサンブルとほぼ出ずっぱりで声楽的にきついということもあるが、ドラマとしてみると何かと問題のある台本だし、そのなかで真実味を感じさせ、観客に感情移入させるには、生半可な表現力では無理ということだと思う。マリア・カラスの名前を出すまでもなく、それだけ特別な役柄でもある。

それで、みつなかオペラの二人のノルマ、並河寿美さんと尾崎比佐子さんは違った役作りのように見受けた。きっと二人ともずいぶんと時間をかけて準備してきたのだと思う。並河さんはストレートにぐいぐいと押しノルマの激情を伝えるという感じなら、尾崎さんは情感を重視しノルマの悲哀を伝えるとでも言おうか。剛と柔、怒りと宥し、愛と憎しみ、何とも振幅の大きな感情を過不足なく表現するのは至難、どちらかに重心が位置するのは普通だ。

アダルジーザを歌った佐藤信子さん、木澤佐江子さんは、いずれも立派な出来だったと思う。佐藤さんは声質的に並河さんと近く、 声の対比感が薄くなってしまう嫌いはあったが、これは本人の責任じゃない。木澤さんは本人としても快心の出来だったようす。第2幕の尾崎さんとのデュエットは確かに見事。

ノルマの父、オロヴェーゾはアリアひとつない役柄だが、オペラの進行上けっこう重要だし、こういうところに片桐直樹さんがいると安心感が増す。畑奨さんはまだこれからという感じかな。

そしてポリオーネ、松本薫平さんは高音がきれいに出るかと思うと、くぐもったようになったりと響きにムラがあり、どちらかと言えば不調だ。この人の独特の明るい音色は好きなので、ちょっと残念だ。

藤田卓也さんは川西でスターダムに登った人で、これからは藤原歌劇団の看板テノールになる人だ。ただ、この日の歌唱は彼のベストではないと思う。素晴らしい声なのは言うまでもないが、第1幕前半の歌唱は気負い気味で彼本来の美質が損なわれがちになっていたのが残念だ。上手く力を抜けばこの人の良さが100%出るのにほんとに惜しい。東京から駆けつけた友人(先月、秩父で彼のカラフも聴いている)も同様の印象のようす。首都圏のメジャーデビューがオーチャードホールというのは気になるところ。力んで声を張り上げなくても全く問題なく3階の天井桟敷まで届く。既に吹田のメイシアターでも歌っているリッカルドなので、そんなことにはならないとは思うが。

並河さんも東京でレオノーラ(「トロヴァトーレ」)の二期会公演の予定が入っている。関西の舞台で力を蓄え、満を持して首都圏へというキャリアは、考えようによっては歌い手にとって良いことかも知れない。早い時期に主役に起用されても実力不足でその後の伸びが感じられない歌い手は首都圏に大勢いるからだ。20日には並河さんをロビーでお見かけした。「昨日はとても良かったですよ」と声かけすると、にっこりと御礼を述べられた。これも500人規模の小さなホールの良さだろう。

メイシアターの「アンドレア・シェニエ」のとき、評論家の東条碩夫さんに「川西で藤田卓也さんのポリオーネを是非お聴きになってください」とお勧めしたが、予想どおり、会場に姿があった。首都圏にとどまらず各地のめぼしい公演に足を運び素早くレポートを公開している評論家なんて、この人に以外にいないはず。と、私も遅ればせながら両日の印象を記す。みつなかオペラ、来年からはプッチーニのシリーズが始まる。「マノン・レスコー」、「妖精ヴィリ」&「外套」、「トスカ」の予定だとか。

ジャンルのトップメニューに戻る
inserted by FC2 system