高校生のためのオペラ鑑賞教室「蝶々夫人」 〜 尼崎は今年限り
2015/10/28

来シーズンの新国立劇場のラインアップが一部発表されているらしいと聞いてホームページを覗くと、指輪四部作の「ワルキューレ」と「ジークフリート」がシーズンの最初と最後にかかるようだ。それはともかく、尼崎での高校生のためのオペラ鑑賞教室の記事に目が止まる。そうだ、これがあったんだ。27日は一般売りはないらしいが28日はあるとのこと、これは行かなくちゃ。古いプロダクションは新国立劇場で観ているが、今のものはまだ観ていないし。

30分前にアルカイックホールに着いたら既に10人ほどの列ができている。当日一般売りは17枚、あとで少し追加があって21枚とのこと。開演一時間前の売り出しに来た人は全員買えたのではないかな。1階最後列4320円也。

公演プログラムの表紙

蝶々夫人:吉田珠代
 ピンカートン:樋口達哉
 シャープレス:大沼徹
 スズキ:小林由佳
 ゴロー:糸賀修平
 ボンゾ:畠山茂
 ヤマドリ:小林由樹
 ケート:佐藤路子
 合唱:新国立劇場合唱団
 合唱指揮:三澤洋史
 管弦楽:大阪フィルハーモニー交響楽団
 指揮:城谷正博
 演出:栗山民也

以前の栗山昌良演出はディテールまで丁寧に作り込んだ「蝶々夫人」のスタンダードとも呼べる舞台だったが、この栗山民也演出(同じ姓なので紛らわしい)は装置を極限まで簡略化した相当にシンプルな舞台だ。良し悪しは一概に言えないが、これはこれで、プッチーニが細かいところまで神経を張り巡らせた音楽に集中ということでは悪くはないと思う。

高校生のためのオペラ鑑賞教室に来たのは三度目のはず、「愛の妙薬」と「夕鶴」を観ている。開演前の客席の賑やかさは相当なものだが、今日の高校生は音楽が始まると居眠りの生徒も含めずいぶん静かに聴いている。学校での事前の指導が行き届いているのだろうか。「蝶々夫人」の時代背景が今のNHK朝ドラと同じ頃だから違和感がないのかも知れない。おっと、朝ドラは登校時間とかぶるから彼らは見てはいないか。
 蝶々さんが15歳でもうお婆さんという台本に失笑が起きるかと思ったけれど、それはなかった。客席の女子高生の年頃だ。彼女たちはどう感じただろう。

さて、演奏だが、新国立劇場の公演でカバーキャストに入るような人たち、二期会や藤原歌劇団で主役を務めるようなメンバーになる。高校生相手だからと手抜きしないのは立派だ。音楽の先生も来ているだろうし、わざわざ当日一般券に並ぶ20名程度のコアなファンも客席にいるから、下手なことをすると評判を落としかねないリスクもあるわけだ。

タイトルロールを歌った吉田珠代さん、何だか人形遣いのような名前だが、彼女の安定感がある美声は一番の聴きものだった。これからの人のようだし、もっとスケールアップしていけばいいプリマとなりそうだ。そして、この役にはさらに所作の洗練も大切かと思う。

ピンカートンの樋口達哉さんは久しぶりに聴く人だ。ずいぶんと名前も売れて来たようでご同慶の至りではあるものの、やはり私には物足りなさがつきまとう。以前からそうなのだが、高音域が出るには出るが安定しない。その点はだいぶ改善はしていると思う一方で、強い声を出すのと引き替えに音楽の流れを壊してしまう二期会先輩テノールの悪癖の気配があるのが心配だ。

シャープレスの大沼徹さん、スズキの小林由佳さんの歌はしっかりしている。この両役が弱いと「蝶々夫人」は薄っぺらいオペラになってしまうので、とてもありがたい。

カーテンコールに合唱指揮の三澤洋史さんの姿がなかったので、この公演には立ち会っていなかったのだろうか。第1幕のコーラスはさすがというレベルだったのに、第2幕のハミングコーラスがいまひとつの感があったのは何故だろう。音量のバランスとコントロールが効いていない印象があった。

大阪フィルがピットに入るのは今はこの高校生オペラぐらいだ。ずいぶん縁遠くなってしまった。それなりの演奏ではあるものの、どこまで気合いが入っていたのか疑わしいところもある。幕間に他の曲をさらっているようではねえ。

外に出たらホールの前にバスが2台横付けされている。ちょっと遠くの学校が来ていたのかなとフロントガラスの校名を見たら「家島高校」とある。へえー、瀬戸内海の島から遠いところをと思ったが、家島というのは兵庫県姫路市になる。橋はないが姫路港からフェリーで30分ほどだから、今日は終日この学校行事に充てているんだろう。高校生にしてみれば遠足のようなものか、彼らにすればもっと他に行きたいところもありそうだが、今回のオペラはどんなふうに思っただろうか。聞いてみたい気がする。

来年からは関西での高校生のためのオペラ鑑賞教室の会場が京都会館を改築した京都ロームシアターに替わるらしい。アンドレアス・ホモキ演出の「フィガロの結婚」が予定されている。この演出も初台で見逃したものだけに、都合がつけば行ってみたい。京都になるときっと丹後半島の高校もやって来るのだろう。京都縦貫道が全通したので今や日本海まで片道2時間もかからないし。

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