伊丹市民オペラ「トスカ」プレトーク
2016/2/7

3月の公演のプレトークに出かける。主役の山口安紀子さんと藤田卓也さんが歌うというので、わざわざ伊丹まで。入場料は1500円、公演のチケットを買っていると1000円というのは高いのか安いのか微妙な価格だ。 プレトークのチラシ 会場は本公演が行われるいたみホールではなく、となりの伊丹アイフォニックホールだ。ここは打ち切りになったVOCのヘンデルシリーズで何度も来たところ、もっとも二階のメインホールではなく、一階のスタジオでの開催で定員が60名とわずかだ。私は間違って二階に上がってしまったら、そこは子供の発表会みたいなものをやっていた。あれれ。

山口安紀子(ソプラノ)
 藤田卓也(テノール)
 殿護弘美(ピアノ)
 井原広樹(講師)

演出家の井原さんが進行役で、前半はトーク、後半が歌中心という構成。休憩を挟んで正味2時間程度、前半1時間も喋るのかという感じだが、井原さんの関西人特有のそらさない語り口で退屈させない。途中に両歌手が登場してインタヴュアーとしても上手に色々なことを聞き出している。

レクチュアの内容としては、オペラの筋書きよりも、オペラの幕が開く前史や時代背景などを中心としたもの。何度も観ているオペラだけど、そうだったのかという点がいくつもあった。カヴァラドッシはフランスからローマに出稼ぎに来ていて、トスカと恋仲になったことで戻り難くなっているとか、スカルピアは警視総監に着任早々であるとか、知らないことも多かった。

この「トスカ」というオペラ、井原さんによれば関西(大阪周辺ということか)での国内団体の本公演ではほとんど取り上げられておらず、関西二期会では絶無、関西歌劇団でも何十年と遡るということ。確かに、言われてみるとそのとおりかな、でも待てよ…

休憩時間にロビーで井原さんに声をかけた。
 「せんせ、トスカは確かカレッジオペラハウスで取り上げていますよね」
 「ああっ、そうでした。栗山先生が演出で」
 「指揮は、広上さんでしたよ」

即座に演出家の名前が出るのはさすが商売柄、きっと今回の伊丹市民オペラの「トスカ」の稀少価値を強調するために、意識的に捨象されたのだろう。すれっからしのオペラゴーアーはすかさずツッコミを入れてしまう。私も性格が悪いなあ。ちなみに1997年のその公演のタイトルロールは今をときめく並河寿美さんだった。

さて、後半、お待ちかねの両人の歌になる。学校の音楽室ぐらいの部屋で、この人たちが歌ったらどんなことになるか心配したが、フルヴォイスには少し余裕を持たせた感じだったかな。

トスカという役柄はその存在感とは裏腹にごく短いアリアがひとつだけ、したがってデュエットとアリアがひとつずつというのはバランス上致し方ない。「妙なる調和」は割愛となる。それは本番でのお楽しみということだろう。

山口安紀子さんは期待の新星、海外での経験を積んでいるので新星というのも語弊があるが、ソプラノには珍しいほど言葉が明晰だ。歌詞、台本あってのオペラ、ヴォカリーズと変わることがないほど口跡のよくない人が大勢いるなかに貴重な存在だ。これからとっても期待できそう。体力づくりにキックボクシングをしているそうで、均整のとれたスタイルも舞台映えがする人だ。

藤田卓也さんは5年前の川西での「ファヴォリータ」で仰天して以来、聴き逃さないようにしているテノールだ。そのときのフェルナンド、その後のアルトゥーロ(清教徒)、リッカルド(仮面舞踏会)、アンドレア・シェニエ、ポリオーネ(ノルマ)と、いずれも素晴らしい歌唱を聴かせてくれたが、藤原歌劇団入団を機に定番の役柄にシフトして行くのではないかと心配だ。この人にしか歌えない役柄があるのに、もったいない。3月も、このカヴァラドッシとピンカートンなので、なおさら。

この先、「ドン・パスクアーレ」のエルネスト役が予定されていて聴いてみたいが、東京のみの出演になっている。びわ湖ホールでの同役は、アントニーノ・シラグーザということなので、それはそれでいいのだけど。そう、シラグーザやフローレスがカバーするロールをこの人で聴きたい。

今回のカヴァラドッシ、悪くはないのだけど、ヴェリズモの役柄だとどうしても余計な力が入る。「星は光りぬ」の終わりはヴィヴラート過剰のように聞こえた。こんな歌い方は危険な兆候だ。ロッシーニやドニゼッティ、藤原歌劇団なら取り上げる可能性があるから、それに期待したいものだ。

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