浜松市民オペラ「イリス」 〜 ご当地もの?
2016/2/14

新幹線の車窓から眺めるアクトシティ、浜松で唯一の高層ビルだから目立つのは当然、ここに立派なホールができているのは知っていても、訪れるのは今回が初めてだ。「イリス」いうレアものオペラが上演されるというので、足を運ぶ気になった。

名古屋までは近鉄、株主優待券なので交通費はゼロ、その先も新幹線を使わず遠回り。名鉄から豊橋で乗り継いだJR東海道線も二駅、静岡県に入った新所原で下車する。ここからは天竜浜名湖鉄道と遠州鉄道を乗り継いで浜松に向かうというてっちゃん旅となる。新所原駅舎の中にある店で求めた鰻丼を食べながら、のんびりした浜名湖北岸を行く。鰻は高くなったけど、ここの店は相対的に安いし焼きたての味がいい。私はリピーター、一両編成(?)の車内には同じ趣向の人もいて、旨そうな香りが充満している。

天竜川を渡る手前、西鹿島が遠州鉄道との乗り換え駅だ。国鉄二股線の名残をとどめるローカル線から、私鉄郊外電車へのギャップの大きさが可笑しい。単線だけど浜松市内に入ると高架だ。沿線の八幡駅前にはヤマハの本社もある。さあ、アクトシティだ。

イリス:吉田珠代
 オーサカ:水船桂太郎
 キョート:町英和
 イリス父:大塚博章
 ディーア・芸者:大石真喜子
 屑拾い: 望月光貴
 行商人: 壽明寛
 合唱:コーロ・デル・ソーレ
 管弦楽:浜松フィルハーモ二―管弦楽団
 指揮:杉原直基
 合唱指揮・副指揮:宮本賢二朗
 演出:三浦安浩
 美術:鈴木俊朗、佐藤みどり
 照明:稲葉直人、大平智己
 衣裳:坂井田操

このオペラ、単純極まりないプロットにナンセンスなシチュエーション 、素敵なアリアはあるものの、これじゃレパートリーに残るのは難しかろうとは客観的にも明白だ。それでも、一作ごとに趣向を替えるマスカーニの作品にはそれなりの面白さがある。私のCD棚には何故か9作品も並んでいる。そして、「イリス」は静岡のご当地ものということらしい。それもあっての市民オペラでの上演の由。

タイトルロールを歌う吉田珠代さんは第6回静岡国際オペラコンクール第2位、三浦環特別賞受賞ということらしい。そのことは知らなかったが、昨年の尼崎での新国立劇場高校生のためのオペラ鑑賞教室「蝶々夫人」で聴いている。丁寧な歌いぶりで好感を持った人だ。そのときにも感じたが、この2000人を優に超える大ホールでの主役としてはスケール感がいまひとつだ。声量的にはディーア・芸者大役でイリスのカバーキャストでもある大石真喜子さんに及ばない。バリトンの上江隼人さんにしてもそうだが、こういう歌い手は多い。難しいところだ。

オーサカの水船桂太郎は美声だが、こちらもやや線が細い印象がある。町英和さんの歌うキョートとともに拉致誘拐を企てる悪役らしくない。まあ、話が無茶苦茶なので、あまり役柄のキャラクター云々を言っても仕方ないけど。イリスの父、大塚博章さんはちょっと苦手な声だ。声は大きいのだけど地声に近いような響きがどうも。

演出の三浦安浩さん、首都オペラの「フランチェスカ・ダ・リミニ」の演出を観ているはずだ。ともだちが言うには、この人の演出には品がないとことだが、今回の舞台はまあまあという感じかな。北斎の描くような鋭角の富士山と吉原の遊郭が裏表になった回り舞台は悪くない工夫だが、これは美術担当の問題だろうか、けばけばしさに傾いて色彩面での美しさに欠ける。富士山の麓のイリスの家のそばには台本にもある小川が描かれているが、これを川に見立てているのか、無視しているのか不統一で3階席から見下ろしていると気になって仕方がない。川で洗濯の場面は当然流れの畔に人物が配置されるし、旅芸人たちがやって来るときも川を跨いでいる。しかし、冒頭や終幕のコーラスでは平気で川の中に立つ。まったく詰まらないことだけど。

地元の人たちのコーラス、常設の団体のようには行かないが健闘だと思う。それと、しっかりした音が出ているなあと思ったオーケストラ、アマチュアだと思ったらプロの人たちで構成されているようだ。難点を言えば緩急の変化に乏しいことで、短いはずのオペラがずいぶん長く感じた。これは指揮者の問題かも知れない。

鰻で始まり餃子で終わる。なぜか真ん中にモヤシを盛り付けた浜松餃子、この取り合わせのメリットはよく判らないが、ともかくビールはすすむ。戻りが遅くなっても困るので名古屋までは新幹線を奮発、もちろん名古屋からは安上がりの近鉄特急で。

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